ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏は、SNS「フェイスブック」のある機能によって起きた騒動は当然のことだという。

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 世界最大のSNS「フェイスブック」のある機能が米連邦議会を巻き込んだ騒動に発展している。

「トレンディング・トピックス」と呼ばれるその機能は、フェイスブック上で人気が急上昇しているトピックやニュースが機械的に判断され、表示されるというもの。米国をはじめとする英語圏の一部のフェイスブックにのみ導入されている(日本版には2016年5月現在導入されていない)。

 フェイスブックは従来この機能を「機械が自動的に判断してトピックを決めている」と説明していた。しかし、実際にはトピックを選定する編集者チームが内部におり、保守系のニュースやトピックが表示されづらくなるよう編集者が操作していたということが元編集者からの告発という形でネットメディア「ギズモード」に報じられたのだ。

 スクープを受け、フェイスブック側はすぐ報道を否定する声明を発表した。だが保守派論客や議員が納得せず、騒動は議会にまで飛び火。上院の商業科学運輸委員会が同社に記事の選択方法やガイドラインの提出を求める事態に発展した。

 フェイスブックとしてもここまで大きな騒動になるとは思わなかったに違いない。というのも、ニュースに重み付けを行い、任意のニュースを大きく報じ、気に入らないニュースを報じないのは新聞やテレビなどの伝統メディアがよくやる「お家芸」だからだ。例えば日本でも、大きな脱原発デモがあると、朝日新聞や毎日新聞は1面で取り上げるが、読売新聞や産経新聞はそもそも取り上げない。それは社としてのオピニオンがあるがゆえのことで、むしろ「読者のための重み付け」ともいえる。

 
 フェイスブックが問題視されたのは、彼らがオピニオンを発信する「報道機関」ではなく、情報の流通を促進する「プラットフォーム企業」だったことだ。多くのユーザーはトピックは機械による自動表示だと思っていた。だが、そこに編集者の作為が介在する余地があるとなると、プラットフォームが持つべき中立公平性に疑問が出てくる。

 実は同社には「前科」がある。14年にユーザーに断りなく、ニュースフィードのアルゴリズムを操作して、ポジティブな言葉や、ネガティブな言葉をそれぞれ増やす実験を行い、その結果を学術誌に論文として発表したのだ。

 実験結果では、接する情報にポジティブもしくはネガティブな言葉が入っていた場合、それを見たユーザーが影響を受けることが明らかになった。

 フェイスブックが「本気」になれば、特定の方向に世論を誘導することもたやすいということだ。ユーザーのあずかり知らぬところで行われたこの実験は多方面から非難を浴びた。今回の一件で議会まで動いたのは同社への不信感が背景にある。

 全世界で16億5千万人もの利用者を抱えるフェイスブックはもはや単なる一IT企業ではない。中立性が厳しく問われるのは当然だ。今後に注目したい。

週刊朝日 2016年6月10日号