賛否を呼んだマイナス金利政策。しかし、“伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏は景気回復に繋がると主張する。
* * *
先日、近所の友人夫婦と旅行に行き、飲みながら馬鹿話をしていたら、家内アヤコに言われた。「もう老人だから、同じことを繰り返すのは仕方ありません。しかし、同じメンバーに同じことを話さないでくださいね。昨晩、全く同じ話をこのメンバーに話していましたよ」。アチャー。
★ ★
馬鹿話だけではなく専門分野の話でも、同じような話(=円安必要論)で失礼いたします。
4月28日の金融政策決定会合で日銀が「金融政策を変更しなかった」ことを理由として111円台にあった円が急騰し、それに伴って株価も急落した。
「円高が進むと輸出に悪影響が出る。したがって輸出株を中心に株価が下押しされた」という解説が散見されたが、自国通貨高は単に輸出だけの問題ではなく、国内景気自体を低迷させ、デフレを深刻化させる。だから、株価が下がった。
2月のG20では「通貨切り下げ競争」に釘を刺した。どの国も不景気の今、通貨安で景気を回復させたいのだ。それに逆行する円高が続けば、日本は経済がポシャる。円高は深刻な問題なのだ。
ただ幸いなるかな、4月末からの「円高/ドル安」の動きは一時的だと思っている。米国株価は史上最高値を更新しそうな勢いだし、米国労働市場は完全雇用に近い状態だ。完全雇用で資産価格が高騰しているのは日本のバブル期に似ている。これで「景気が悪い」などとは言えないはずだ。少なくとも政策金利が0.25~0.5%に据え置かれてよい状況にはない。だから、米国はペースを遅くするにしても利上げの方向に変わりはない。
一方、日本は長年の間、金利を上げられない。上げる方法がないからだ。日米金利差は開くばかりだ。
どうしても「さらなる緩和」を期待するなら、マイナス金利幅の拡大は可能性がある。よく「マイナス金利政策は効果がない」という評論を聞くが、とんでもない。「マイナス金利政策が効かない」のではなく、「マイナス0.1%は効かない」のだ。マイナス10%にすれば、いくらなんでも効くに決まっている。
マイナス金利政策は「景気が悪ければ金利を下げ、景気が過熱すれば金利を上げる」という意味で「伝統的金融政策」だ。引き下げの結果、行き着いた先がマイナスだった、に過ぎない。伝統的金融政策であるがゆえに出口もある。金利を引き上げればよいだけだ。
ただこの選択肢は「預金金利もマイナスにさせる」という勇気を、日銀と政府が持たないことには難しい。一時的なマイナス金利を預金者が受け入れれば、円安はより強烈に進み、景気は回復して預金金利もまたプラスに戻る。預金金利のマイナスを認めずマイナス金利幅を拡大すれば、ゆうちょ銀行をはじめ、中小金融機関の経営が苦しくなる。
※週刊朝日 2016年5月27日号