トレンディー俳優の「不倫は文化」発言から二十年。今年またしても不倫騒動が相次いでいます(※イメージ)
トレンディー俳優の「不倫は文化」発言から二十年。今年またしても不倫騒動が相次いでいます(※イメージ)
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 悲しい愛を描いた文楽作品「妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)」について、次世代を担う文楽太夫の一人、豊竹咲甫大夫さんが紹介する。

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 トレンディー俳優の「不倫は文化」発言から二十年。今年またしても不倫騒動が相次いでいます。国政を預かる立場にありながら、イクメンを装って不倫していた議員はあっさりと議員辞職しましたが、四月に大阪で上演する妹背山婦女庭訓は、そんな元議員にも観てほしい演目。なぜなら、国のために恋愛を諦めざるを得なかった壮絶なストーリーだからです。

 時は飛鳥時代、教科書で習った大化の改新の前夜。豪族の蘇我入鹿が天皇家をしのぐ権力を誇り、恐怖政治を敷いていた頃のお話です。

 三段目の妹山背山(いもやませやま)の段。吉野川を挟んで、大和国の妹山と紀伊国の背山があり、それぞれを領分としていた太宰家と大判事(だいはんじ)家はその境界線をめぐり長年争っていました。そんななか、入鹿が太宰家の娘・雛鳥(ひなどり)を后(きさき)に望み、大判事家の息子・久我之助(くがのすけ)には朝廷へ出仕するよう命じます。家の存続がかかっている両家は入鹿に逆らえず、我が子を説得するのですが、実は雛鳥と久我之助は互いに想いを寄せる仲。二人は結局、家のために愛を捨てて死を選びます。親が互いの子の死を知り、「ヤア雛鳥が首討つてか」「久我殿は腹切つてか」と掛け合う最後は悲しみの極み。二人の死を無駄にしないと、久我之助の父が巨悪・入鹿に立ち向かっていくのです。

 魅力は何と言っても、両家の対立や男女が引き離されている状況を効果的にみせる舞台構造です。舞台中央に吉野川が流れ、その両脇に太宰家と大判事家の屋敷。通常、太夫や三味線が演奏する「床(ゆか)」は舞台の上手(右側)にありますが、この演目にかぎっては反対側の下手にも床が設けられる両床(りょうゆか)体制。演奏も大判事家は男性的で重厚な曲調、太宰家は優雅で華やかな節回しと対照的で見応えがあります。

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