作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。ベルギー・ブリュッセルの連続テロが起きた日、台湾にいて日本との違いを感じたという。
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ブリュッセルで連続テロが起きた、ちょうどその頃、私は台北の市内でタクシーに乗っていた。台湾人の友人2人と乗り込んだ瞬間、女性のタクシー運転手が「大変なことが起きてる!ブリュッセルで爆発だよ!」と話しかけてきた。え!?とみんな青ざめ、ラジオを大きくしてニュースを聞いた。世界はいったいどうなるんだろう……とタクシーの中がシンとした。それから何故かアメリカ大統領選挙の話になって、運転手も交えてドナルド・トランプはいったい何なの? サンダースとヒラリー、支持するならどっち?などと、盛り上がった。
台湾では政治の話をフツーにするよ、なぜ日本人はしないの?と30代の台湾人の友人が言う。彼女は普段、日本で働いているのだけど、日本に来て驚いたことの一つは、政治の話を避ける人が多いことだという。
確かにそうかもしれない。私たちは政治に意見や感情を持つことを、あまりオープンにしないかもしれない。でも、最近の日本は、ちょっと違ってきたかも……、と私は彼女に答えた。
というのも最近、5歳児のママである友人から、こんな話を聞いたのだ。当たり障りのない話をすることが暗黙のルールになっている幼稚園のママ友たちの間で、安倍さんへの批判と不安がポロポロと出るようになっているのだ、と。そんなことは、これまでの幼稚園生活であり得なかったし、語る本人たち自身も驚いているという。でも、安保法の強引な成立や、オリンピックに使われる巨額な税金などに「どうなってるの」という思いで、ママたちが語らずにはいられなくなっているのだという。
政治とは、竹島が誰のもんだとかという話ではなく、私たちの日常生活と命を支える基盤であること、安倍政権の下に生きる私たちは、逆説的に気がつかされてるのかもしれない。
台湾には、元日本軍「慰安婦」の女性たちの支援をする女性たちに、お話を伺いに行った。今年9月には、日本軍「慰安婦」を記憶する博物館ができるので、その準備に追われている最中だった。特別に展示物がまだ一部しかない館内を案内していただいた。印象的だったのは、彼女たちが最も力を入れているのが、歴史的な展示物のみならず、女たちが集まり、学び、語り合う場所づくりだったこと。
まだテーブルも椅子も何もない、ガランとした部屋。そこに多くの女たちが集まって、政治の話、女の歴史、様々な思いを語り合う姿を思い浮かべると、胸が熱くなった。そういう場所から生まれるものが、大切に育つ社会でありますように。そういうのを平和というのだと思った。
※週刊朝日 2016年4月8日号
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