故・立川談志氏の弟子である立川志の輔氏と立川志らく氏。作家の嵐山光三郎氏が二人の特徴と違いについてこう評する。
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銀座ブロッサム中央会館の立川志らく独演会へ行ってきた。演し物は「居残り佐平次」と「品川心中」という大ネタだ。
銀座ブロッサム中央会館での志らく独演会には忘れ得ぬ思い出があり、2011年の東日本大震災直後、館内停電を覚悟で、ローソクを用意して公演を強行した。銀座の街灯は消え、人通りがなく、灯火管制下のような落語会であった。語り草となった記念碑的落語会であった。
二年前の三月中旬、同会館へ行くと隣席に安西水丸が坐っていた。立川企画の配慮でそうなった。水丸と会うのは二ケ月ぶりで、水丸が志らく独演会にくるのは初めてだ。水丸と最後の仕事になる『ピッキーとポッキーのはいくえほん』(福音館書店)を刊行したところだった。
水丸はつぶやくように、「70歳をすぎたのに、どうしてこんなに忙しいんだろうか」といった。せっかく会ったんだから、終演後に銀座で飲もうか、とさそったが「〆切りの仕事があるんだ」と断られた。水丸を飲みにさそって断られたことは初めてだった。
かなり疲れている様子でタクシーで青山の水丸事務所に送ってから家へ帰った。水丸が急逝したのは、その五日後であった。
志らく独演会のおかげで私は水丸との最後の時間をすごせた。銀座ブロッサム中央会館はあまりに濃い思い出がつまっている。
そして今年。私の左の席には南伸坊が来ていた。伸坊がくることも当日まで知らなかったから、伸坊に二年前のことを話して、
「貴君はまだ若いから、勝手に死なないように」
といった。広い銀座ブロッサム中央会館は超満員であった。それは水丸と一緒のときも同様で、志らくの人気は他を圧している。
志らくの落語はテンポがよく話の展開が広い。登場人物の姿がくっきりと浮かび、とくに女が色っぽい。「品川心中」で、貸本屋の金蔵を心中へ誘う遊女お染の所作がバツグンである。あんなに艶のある女に迫られれば、人のいい金蔵はふたつ返事でつきあってしまう。悪女を演じるときの志らくは凄味が出る。
古典を換骨奪胎して、説明シーンを省略して、ポンポーンとはずんで急所をおさえる。シネマ落語から死神シリーズまで、志らくを長く聴いてきたが、語りの格調の高さは談志に迫りつつある。
談志は「狂気をついでいるのは志らくだ」「俺のやりたいことはお前がだいたいやっている」と志らくを評価していた。
虎(談志)の威を借る弟子を脱して、すでに虎になった感さえある。しかしパンフレット(という名のちらし)に、気になることが書いてあった。