ニューオリンズ・ジャズ&ヘリテイジ・フェスティヴァル
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ラスト・セクステットによる聴きやすい1枚物
New Orleans Jazz & Heritage Festival (Sapodisk)

 一面的な見方ではあるが、マイルス・デイヴィスほど幸せな音楽人生を送ったミュージシャンもいないのではないだろうか。加えて、これまたあくまでも表層的な見方かもしれないが、やることなすことすべてがうまくいき、生涯をトップ・スターとして過ごし、名声をほしいままにした。まさに帝王ではあった。

 そう考えれば、マイルスはその65年の人生でやり残したことなどなく、大団円で生涯を閉じたのだろうが、そうはいうものの、残された者のなかには、「先はどうなっていたのだろう?」と想像を巡らせる人も少なくないだろう。もしも『ドゥー・バップ』がマイルス自らの手で完成されていたら。もしも「過去の再現」の続編があったとしたら、それはいつの時代、どのグループだったのか等々。

 それもこれもマイルスがドアを開け放った状態で旅立ったからだが、個人的には、『ドゥー・バップ』の先もさることながら、結果的に最後となった、通称ラスト・セクステットのその後を聴いてみたかったと思う。

 ラスト・セクステットの特徴は、パーカッションが排除されたこと。キーボード/シンセサイザーにデロン・ジョンソンが参加したこと(デロン・ジョンソンは『ドゥー・バップ』にも起用されている)等が挙げられるが、ベースのリチャード・パターソンもグループに馴染み、まさに鉄壁の布陣として成熟しつつあった。ちなみに他のメンバーは、すでに古株となっていたケニー・ギャレット(サックス)、フォーリー(リード・ベースという名のギター)、リッキー・ウェルマン(ドラムス)。

 今回ご紹介する新作は、そのラスト・セクステットによる、ニューオリンズでのライヴ。マイルスの最期から逆算すれば、5か月前の演奏になる。1曲目が《スター・ピープル》ということから察しがつくように完全版ではないが、まあたまにはこういう短縮版があってもいいでしょう。結果、2枚組が常識の昨今、求めやすく聴きやすい1枚物となっている。

 マイルス、あきらかに「シャンとした」と思うのです。つまりグループの編成が変わったことによってサウンドが微妙に変わり、その「微妙な変化」がマイルスにとっては新しい刺激やインスピレーションとなった。その「小さなオヤ?」がマイルスとグループの演奏に緊張感をもたらしたと考えられる。ラスト・セクステットがマイルスに与えた効用の片鱗は、このライヴ盤でも聴くことができる。まだまだ楽しみの種は尽きない。

【収録曲一覧】
1 Star People
2 Hannibal
3 Human Nature
4 Time After Time
5 Penetration
6 Tutu
7 Untitled Tune

Miles Davis (tp, key) Kenny Garrett (as, fl) Deron Johnson (key) Foley (lead-b) Richard Patterson (elb) Ricky Wellman (ds)

1991/4/27 (New Orleans)

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