正確な音程で吹きまくるマイルスに素直に感動
Live At Hollywood Bowl 1986 (Cool Jazz)
おお、またしても出ました、ハリウッド・ボウル。今回は1986年。それにしても多発していますね、ハリウッド・ボウル。ここまで集中してくると「ベストはどれか」と選びたくなってきますが、まちがいなく、今回ご紹介するこの新作がベストでしょう。
まずもってオープニングからしてちがう。スピーカーから流れてくる第一声は、観客の話し声や場内の雑音ではなく、マイルス・バンドのサウンド、つまり音楽が第一声なのです。これはありそうでない演出でしょう。制作者に拍手を贈りたいと思います。そして、なんと銅鑼(ドラ)のような音まで鳴り響くではありませんか。こういう《ワン・フォン・コール/ストリート・シーンズ》は珍しい。さらに加えて自動車のクラクションがうまい具合に聴こえるのです。このサウンド・バランスも過去ベストではないでしょうか。
マイルスが吹くフレーズも、いつもとちがう。大いにちがう。しかも本日は音程がきわめて正確なのです。これもまた珍しいことでしょう。しかもここに及んでも、まだ《ジャック・ジョンソンのテーマ》は出てこないのです。つまりオープニングでいきなり発熱し、そのままの状態でしばしグルーヴがつづく。この展開、たまりません。好きです。
次に、気になる音質ですが、観客の話し声がうるさく感じるのは、最初の2分程度。その後はサウンドが自然に前面にせり出し、ほぼ完璧なオーディエンス録音状態になります。前にも書いたことがありますが、最初の数分で「客の声がうるさいなあ」と投げては後悔します。そうそう、申し遅れましたが、このハリウッド・ボウル・ライヴは、2枚組のようにみえて1枚物です。聴きやすい、楽しみやすいライヴとして、こういうものこそマニアから初心者まで幅広く聴いていただきたいと、切に思います。
それよりなにより、圧倒的にすばらしいのがマイルスです。86年の時点ですから、まだまだ弱体化はしていないのですが、それにしても元気です。加えて、これほど矢継ぎ早に吹きまくるマイルス、ちょっと思いつきません。さらに驚かされるのは、音を正確にヒットしていることです。ずいぶんと帝王に対して失礼な言い草ではありますが、帝王が正確に吹くことって、珍しいのです。これは新鮮な驚きといっていいでしょう。
サイドメンでは、1曲目のボブ・バーグが笑えます。ソロ・パートになって最初に吹く音とフレーズが、あきらかにおかしい。あるいは意図的なものでしょうか。もしそうだとするなら、ボブ・バーグ、なかなかに図太い神経の持ち主だったようです。
【収録曲一覧】
1 One Phone Call / Street Scenes-Speak
2 Star People
3 Perfect Way
4 Human Nature
5 Wrinkle
6 Tutu
7 Splatch
8 Time After Time
9 Full Nelson
10 Carnival Time
(1 cd)
Miles Davis (tp, key) Bob Berg (ss, ts) Robben Ford (elg) Robert Irving (synth) Adam Holzman (synth) Felton Crews (elb) Vincent Wilburn (ds) Steve Thornton (per)
1986/8/17 (LA)