バン――。上の句の一音が読まれた瞬間、畳上に並べられた札が豪快にはじき飛ばされる。
百人一首の札を取り合う競技かるたは、瞬発力や記憶力、体力を要し、その激しさから「畳の上の格闘技」とも言われる。
マンガ「ちはやふる」の人気に加え、ブームを牽引するのは、女性の競技者だ。袴姿で熱戦を繰り広げる、女流最高峰の「クイーン戦」は動画サイトの「ニコニコ生放送」で放送されるなど高い注目を集める。
華やかさに加え、実力も折り紙つきだ。
「中堅が着実に強さを発揮し、刺激を受けた若手から実力のある選手も台頭しています」とクイーン戦大会役員は言う。
強く美しい、かるた撫子からますます目が離せない。
◇石谷あさひ(19)
小学5年で競技かるたを始めた。めきめきと実力を伸ばし、中学3年で最高階級のA級を取得、高校ではかるた部をつくるほどのめり込んだ。昨年、法政大学に入学。理系の学部で研究に励みながら、かるた部で腕を磨き、今年のクイーン位挑戦者の東日本代表にも選ばれた。19歳の誕生日プレゼントには練習用の畳をリクエストするほど、かるた一筋の生活を送る。「実力をつけて、いつかはクイーンになりたいですね」
◇坪田 翼(33)
3度目の挑戦、これが最後と決めた昨年のクイーン戦で女王の座を初めて射止めた。その時妊娠4カ月、身重で挑んだことも話題を集めた。出産や子育てで一時かるたから離れたが、昨年9月から復帰。競技者でもある夫の裕史さん(33)は仕事の傍ら、練習相手になったり、育児を担ったり。献身的なサポートで妻の初防衛戦を支えた。「家族で掴んだ勝利、娘が分かるようになるまでクイーンの座を守りたいですね」
◇本多恭子(24)
両親の影響で6歳から競技かるたを始めた。小学1年で全国大会に出場し3位に入賞、2歳上の姉の未佳さん(26)と同じく、全国屈指の強さを誇る立命館大学のかるたサークルに所属し、強豪校で腕に磨きをかけた。1月、挑戦者としてクイーン戦に4年ぶり、2度目の出場を果たした。社会人で挑んだ今大会、仕事以外の全てをかるたに注いだが、あと一歩届かず、悔し涙を流した。「最後はクイーンに」。姉妹でひとつの夢を追いかける。
※週刊朝日 2016年3月4日号