「胃や大腸などの消化管はある程度組織を外せば血管が出てくるのでわかりやすいですが、肝臓は内部に血管が無数に走っており、太い血管も多くある『血管の塊』のような空洞のない固形臓器です。中を割っていくと血管が出てくるという状態で、出血しやすい」

 大量に出血すると死に至るため、肝臓の切除はより慎重におこなう必要がある。腫瘍の場所や大きさによっては開腹手術でも難しい場合が多く、腹腔鏡下手術ではさらに難易度が高くなるという。谷医師も次のように話す。

「血管処理のための手術器具や技術は進歩していますが、肝臓は大きいのでそれでもやはり見づらい部分もありますし、出血して開腹に切り替えなければならない場合もある。腹腔鏡下手術に固執することなく、適切な対応を取れるかどうかが問われるでしょう」

(※1)相次いだ死亡事故
 千葉県がんセンターでは、2008~14年に4人の医師がおこなった肝がんや膵臓がんなどの腹腔鏡下手術で11人が死亡。群馬大学病院でも10~14年に40代の男性医師が執刀した肝がんの腹腔鏡下手術で8人が死亡した。

 千葉県がんセンターの場合、死亡した11人中7人が難易度の高い保険適用外の手術、群馬大学病院も8例すべてが保険適用外の肝がんの手術だった。また、保険適用外の難しい手術が倫理委員会にかけられることなく安易におこなわれていたばかりでなく、死者が出ても問題視せずに次々と手術を続け、組織として対策を打ち出さなかった。関わった医師と問題を見過ごしてきた病院の双方の責任が問われている。

週刊朝日 2016年2月12日号より抜粋