黒柳:そう。青森から上京して家政婦をやっている中年女性の役だったから、綿の「肉」を着て髪の毛はチリチリのパーマネント、厚手のメガネをかけてほっぺたも赤くしたんです。役の格好のままNHKの食堂に行って、プロデューサーと杉良太郎さんに「おはようございます」と挨拶したら、二人ともチラッと私を見て「はあ」と言って、また二人で話してるのよ。仕方ないから「ねえねえ、おはようございます。黒柳徹子ですけど」と言ったら、「えーっ!」って(笑)。

林:アハハハ。

黒柳:あなたご存じないかもしれないけど、「ステージ101」という大勢の若い子が踊ったり歌ったりする番組があったんです。

林:知ってます。見てましたよ。

黒柳:あの番組の司会もやってたんだけど、同じ日に「繭子ひとり」を撮ってて役の格好のままトイレに行こうと廊下を歩いてたら、後ろから「ステージ101」の女の子たちが「すいませ~ん」とか言って私を突き飛ばして先に入っちゃうのよ(笑)。

林:ひどい。

黒柳:でも、それはみんなが悪いんじゃなくて、そういう方はそうやって扱われるんだとわかったんです。食堂でコーヒー頼むと、いつもは「アイスですか。ホットですか」ってやさしく聞いてくれるウェートレスさんが、カップをテーブルにガチャンと置くの。私はメイクを落とせばやさしく聞いてもらえる生活に戻るけど、こういう人はずっとこのままで、だからこそ自分の息子を大事にしてるんだって、役の気持ちがわかったんです。

週刊朝日  2016年1月1-8日号より抜粋