ケルン1991
ケルン1991
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ジャケットがかっこいい最後のセクステットのケルン・コンサート
Koln 1991

 音楽評論家という職業柄、CDやレコードや資料の類が山積していると思われがちですが、想像されるほどではなく、むしろ少ないほうではないかと思っています。それに整理整頓が得意なわけでもなく、しかし散らばるのは嫌いという矛盾した性格の人間ではあります。整理がイヤで散らばるのもイヤということで、だから資料が増えない、増やさない方向で心がけているともいえます。

 このコーナーで取り上げるマイルス盤に関しては、部屋の一角に積み上げています。先に出たものが下になっていくわけです。ところがなにかの弾みでその山が崩れ、上下がグチャグチャになってしまうことが年に何度かある。そうなるともうダメです。出た順番に正確に積み直すことは不可能に近く、結局は「まあいいか」ということで、なかったことにしてしまいます。

 今回ご紹介するマイルス盤は、そのような犠牲者です。発売は夏ごろだったようですが、いまごろ山の中から出てきました。ご存知の方には「なにをいまさら」でしょうが、そこはひとつ、かっこいいジャケットに免じて許してやってください。ちなみにこの写真は、フランスかイタリアで出ていたファッション雑誌の表紙に使われたものだと思います。マイルス先生、大阪道頓堀を闊歩する浪速のおばさんが颯爽と身につけているような豹柄をお召しになっています。

 1991年3月、ドイツはケルンにおけるライヴ。ケルンといえばキース・ジャレットですが、マイルスにも数枚のケルン・コンサートがあります。このCDは前回ご紹介したものと同じく最後のセクステットによるもの。マイルス他界の約半年前にあたる。この時期のライヴといいますか、91年に入ってからのライヴには演奏を超えた物語性をどうしても付加したくなるわけですが、しかしマイルスにとって「死」はまだまだ先のことであったはず、このライヴでも元気なトランペットを聴かせています。まあ、それだけに逆に半年後の訃報が信じられず、衝撃を呼んだわけですが。なおこの時点ではマイルスはラスト・アルバムとなる『ドゥー・バップ』を制作中、新しい世界を視野に入れていたことを付記しておきたいと思う。

 ラスト・セクステットの要は、それまでのリッキー・ウェルマンやフォーリーもさることながら、シンセサイザーのデロン・ジョンソンでしょう。彼の参加によって、マイルスのグループは知的な結束力が甦り、再び緊張感を取り戻したといっても過言ではありません。このライヴでは、そのあたりが如実に理解できます。この時期を過小評価している人にこそ、ぜひ。というわけで、また来週。

【収録曲一覧】
1 Perfect Way
2 Star People
3 Hannibal
4 Human Nature
5 Amandla
6 Are You Legal Yet
7 Jailbait
8 Wrinkle
9 The Senate - Me And You
10 Tutu
11 Drum & Bass (incomplete)
(2 cd)

Miles Davis (tp, key) Kenny Garrett (as, fl) Deron Johnson (key) Foley (lead-b) Richard Patterson (elb) Ricky Wellman (ds)

1991/3/26 (Koln)

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