9月末に飛び込んできた中国当局による邦人2人の拘束事件。容疑が「スパイ行為」とはただごとでない。
報道によると、一人は脱北者で日本国籍を持つ神奈川県在住の50代男性。中朝国境近くの遼寧省丹東で拘束された。もう一人は愛知県の50代男性で浙江省の軍事施設近くで拘束。時期はいずれも今年5月からだという。
中国事情に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏によると、中国は2014年に「反スパイ法」を施行した。「すべてに厳しくなり始めている。背景には体制不満への危機感がある」という。
03年から8カ月間、中国当局に拘束、服役した脱北者支援NGO幹部の野口孝行さん(44)によると、中国では外国人の身元は宿泊場所で毎回把握される。「とくに脱北者の方は当局にマークされていたはず。今回の拘束は、屋外で流暢(りゅうちょう)に話す朝鮮語を聞かれたためかもしれません。今は日本国籍が命綱と信じている状況だと思う」と話す。
「我が国はスパイを送ったことは絶対ない」
拘束事件の報道を受け、菅義偉官房長官は9月30日の会見で日本政府の関与を強く否定した。だが、諜報(ちょうほう)活動に詳しいジャーナリスト、大野和基氏は笑う。
「どちらにしても『やっています』と言うわけがない。米国も言いませんよ」
日本政府は、国家安全保障会議(NSC)をつくり、対外情報活動を強化してきた矢先だ。今年3月には、オーストラリア紙が、日本政府は08年からスパイ養成を目的に豪情報機関ASISに20人以上を派遣していると報道した。「豪のASISは、米CIA、英MI6に次ぐ情報機関で、要員を訓練するための島まである」(大野氏)
今回の拘束現場は各国が入り乱れる諜報活動の舞台だった。米諜報機関の元情報担当者は言う。