エイブリー・フィッシャー・ホール1984
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理想的な状況で行なわれた必殺のニューヨーク・ライヴ
Avery Fisher Hall 1984 (Cool Jazz)

 これまで何度も書いてきたが、ニューヨークで聴くマイルスは、やっぱりどこか緊張感がちがう。他の国や場所でやるときに手を抜いていたという意味ではなく、ただ「ニューヨークはちがう」ということにすぎない。わかりやすくいえば、『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』『フォー・アンド・モア』組対『イン・ベルリン』『イン・トーキョー』組の相違ということになるだろうか。

 何度となく取材をした経験から、その理由らしきものを割り出してみた。たしかにニューヨークは他の都市と異なる緊張を強いる街ではあるが、最も大きい要因は、マイルスの自由な出番にあるのではないか。これはどういうことかといえば、マイルスがニューヨークで演奏する場合、とくにフェスティヴァルなどの場合、必ずといっていいほど対バンドがひかえている。たとえばパット・メセニーとかハービー・ハンコックとか。そして2回興行というのが一般化している。ここがポイントとなる。

 つまりマイルスは、1回目のライヴでは2番目に登場し、2回目のライヴでは最初に登場することが慣例化していた。これによって楽器のセッティングを変更する必要がなく、しかも1回目の熱気を途切れさせることなく2回目にもっていくことができる。ようするに出番を工夫することによって、実質的に1回のロング・コンサートとして組み立てることができる。

 以上のような状況から、演奏の出来は当然のことながら2回目のほうがホットかつグルーヴィーで、そのことを知っているニューヨークのマイルス者は、1回目は捨てて2回目のチケットを買っていた(ぼくは両方行かずにはいられませんでしたが)。

 今回ご紹介するライヴは、まさしく上記の条件がすべて満たされた1枚。すなわちニューヨークにおけるライヴであり、しかも2回目のライヴが収録されている。おお、これぞ理想の展開ではないですか。1曲1曲に触れるのがまどろっこしくなるほど、マイルス御大、それはそれは冒頭から飛ばしまくって、こわいコワイ。さすがはニューヨーク、さすがは2回目のライヴ。帝王の完璧にして最高のライヴというべきでしょう。すばらしい!すばらしすぎる!必殺のオーディエンス録音も雰囲気を盛り上げ、まるで先週行なわれたライヴであるかのような鮮度。ウーム、これは必聴ではないか。ということで、それではまた来週。

【収録曲一覧】
1 Speak / That's What Happened
2 Star People
3 What It Is
4 It Gets Better
5 Something's On Your Mind
6 Time After Time
7 Hopscotch
8 Star On Cicely
9 Code M.D.
10 Jean Pierre
(2 cd)

Miles Davis (tp, synth) Bob Berg (ss, ts) John Scofield (elg) Robert Irving (synth) Darryl Jones (elb) Al Foster (ds) Steve Thornton (per)

1984/6/22 (New York)

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