作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏は女性がときどき遭遇する「オジサマからのテロ」についてこう説明する。
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先日、男性からメールが届いた。小さい集まりで知り合った70代の方で、こんなことが書いてあった。「貴女の態度が不愉快だ。私の話を聞こえないふりをし、幼稚な態度に呆れる」
この男性は、現役時代は大企業勤めのエリートで、夫婦でその場に参加されていたはずだ……ということは思い出せるのだけど、彼が何を怒っているのか、分からなかった。
何が問題だったのだろう。じっくり考えて、もしかしたら、と一つだけ思い当たった。私は彼が楽しそうに話したジョークに、笑わなかったのだ。妻に対する皮肉を込めたもので、気分のいいものではなかったが、確かに私以外の人たちは、笑っていた。私と彼が会話したのは、そのときだけだ。
善良な男の人には信じられないかもしれないが、女は時折、「オジサマからのテロ」にあう。会話時に笑わないとか、褒めないとか、オジサマより面白いこと喋っちゃうとか、そんな理由で気分を害するオジサマたち、少なくないんだよね、日本社会。
これはもちろん、女も悪い。男と話すときに変なスイッチが入ってしまって、「すごーい」しか言わなくなったり、高い声で相づちを打つだけの人形になったり、男が望む反応を率先して演じたりなどして、ダメ男を養成してしまう女も、少なくない。あーあ困ったもんだと、ぐったりしてたら、スタッフが同じようにぐったりした顔で「相談がある」と言ってきた。
「男性から電話注文を受けたんですけど、話を聞いてくれないんです」
「この場合、どう対応すればよかったんでしょうか」
と、疲れ切った彼女に私は言った。オウム返し以外、耳に入らない人もいる。そういうときは諦め、怒らない。そして、せめてそういう男を育てないようにすることが、私たちの出来ることなのよ……。私は、仏の域に入ったと思う。
残念ながら世の中には、女のことを、俺の言葉を受信する機械だと思っている男というのがいるのだ。なるべく関わりたくないよなぁ……と、そんなこと考えていたら、国会で総理が蓮舫議員に口汚いヤジを飛ばしたのを知った。多分、この人も、この類のタイプなのだろう。すごーいっ! と持ち上げず、オウム返しせず、反論する女にカッときちゃうやっかいなオジサマ。
※週刊朝日 2015年9月11日号