高校球児時代から野球界を騒がしている大谷翔平日本ハム)。東尾修元監督もその実力を絶賛するが、さらなる飛躍のために必要なことがあるとアドバイスを送る。

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 日本ハムの大谷翔平投手が8月を終え、両リーグトップの13勝(3敗)で防御率1.98となった。シーズンは残り5戦弱の登板だろうが、勝率、奪三振を含め投手4冠を手にする可能性は高いといえる。

 8月26日の西武戦(札幌ドーム)ではラジオの解説を務めたが、試合を支配していた。おそらく60~70%の出来だったが8回を無失点。何より、西武打線で力を入れて投げたのは、浅村、中村、森の大阪桐蔭トリオだけだった。森には何度も首を振って直球で空振り三振。中村には球速161キロを記録したが、力を入れればいつでも160キロは出せる状態だ。他の打者は完全に見下ろして、力をセーブしながら投げていた。

 試合を支配するというのは、何も投球内容だけではない。投げ合った花巻東の先輩でもある菊池雄星は1点もやれないと初回から力んでいた。いきなり3点のビハインドを背負った打線は、半ば、あきらめに似た雰囲気が出ていた。そうそうチャンスは訪れない。ワンチャンスで3点を入れるには、狙い球を絞って力強く振るしかない。相手の攻撃戦略にも影響を与える存在感が出てきている。

 昨年と比べても、打者への洞察力が増している。打者が打つ気がないと思えば、簡単にストライクがとれる。打ち気にはやる打者には、変化球で目先を変えられる。今、大谷相手に勝つには、リズムに乗っていく前の序盤に先に点を取ること。大谷主導の展開となったら、得点を奪うのは容易ではなくなる。近年でいえば、ダルビッシュ(レンジャーズ)、田中将大(ヤンキース)のレベルに達していると断言してもいいだろう。末恐ろしい21歳だ。

 
 これまでの日本人投手にないスケールを持つ大谷だけに、考えてほしいことがある。それは、早く完成型を求めないことだ。球種でもいいし、どこかに伸びしろを見つけ、スケールをさらに大きくする試行錯誤を重ねることだ。欠点を良くするために、何かを変えるのではなく、圧倒的な長所で欠点を消していく。その作業を繰り返すうちに欠点は欠点でなくなる。そういった発想で野球に取り組んでもらいたい。

 その流れで言えば、今年のキャンプで試していたワインドアップも採り入れてほしい。今はセットポジションから投げているが、体全体を使って、下半身の躍動感を出すには、ワインドアップがいい。あれだけの球速を出すのだから、肘や肩に負担をかけてはいけない。1年間終わった時に、体全体に心地よい張りが出ていることが理想だ。爆発的な腕の振りを、体全体で支えるイメージを持ってほしい。長い間、大きな故障なく投げ続けるには、一番大事なことでもある。

 日本ハムがシーズン2位で終わったとすれば、クライマックスシリーズでは、ファーストステージで1勝、ファイナルステージでは2戦2勝が求められる。日本一へは、大谷が投げた試合はすべて勝つことだ。間隔も中3日や4日になるだろう。二刀流ではなく、投手専任に近い形で結果が求められることになる。

 プレーオフの1勝とシーズンの1勝の重みは違う。相手の集中力も増すし、徹底的に攻略を図ってくる。そういった試合で大谷がどうねじ伏せるのか。どんな可能性を見せてくれるのか──。今から楽しみだ。

週刊朝日 2015年9月11日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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