
「古典の名作を現代的な解釈で」というのは、ジャズの世界に限らず、ありがちなパターンである。
前例もなく、設備や機材も十分でなかった時代に、あれほどの名作が生み出されたのだから、最新のテクノロジーをもってすれば、もっと素晴らしいものができるに違いない、と。
そのように浅はかな人間は想像するわけだが、そういうもののほとんどが凡作で、ろくなものがでてきたためしがない。
楽器ひとつやるにしても、現代では、安く良質な楽器が簡単に手に入り、教則本や音楽教室も充実し、さらにコンピューターを使えば、譜面も読めなくても、テクニックがなくても、音楽が作れてしまう。
こんなにいたれりつくせりな環境であるにもかかわらず、チャーリー・パーカーやクリフォード・ブラウンのような超天才が出てこないのはなぜだろう?
楽器の調達さえ困難で、録音機材もひどい時代に、彼らは驚くべき名演奏を残しているというのに。
思うに、天才は、どんな不遇の環境からでもそれを押しのけて出てくる。少々の困難でぺシャッと潰れてしまうような才能など、もともとたいしたことがないのだろう。
音楽の神々は、意図的に20世紀なかばのニューヨークを狙って、大量の天才を投入し、ジャズを興隆させると、そのあと知らんぷりを決め込んでいるようにも映る。
さて、オーディオの世界でも、過去に名機と呼ばれて、今も人気のあるものが多く流通している。JBLやアルテック、マッキントッシュにマランツなどのメーカーは、ジャズファンのあいだでも特に人気が高い。
人気があるのは、骨董的な価値だけでなく、もちろん音が良いからで、メンテナンスさえきっちりやっていれば、今でも十分に通用する。(当店でも、'80年代に生産されたものが、毎日フル稼働している)
ところが、ここにも「古典の名作を現代的な解釈で」と、単純に考える人がいて、「30年前には今のような高純度な線材を使ったケーブルがなかった。過去の名機に、最新のケーブルを繋げば、さらに素晴らしくなるに違いない!」などといって、スピーカーケーブルを最新のものにするくらいならまだ可愛いものだが、なかには、筐体を分解して内部配線まで交換するマニアもいる。
他人様が自分のオーディオに何をしようと勝手だが、過去の名機は数が限られている。大げさにいえば世界遺産である。オーディオファンの立場からすると、お願いだから、そういうことはやめていただきたい。
素人が、安直な考えでそういった改造をすると、悪くなることはあっても、よくなることはひとつもない。
マッキントッシュやマランツは、過去に生産していた真空管アンプを、”復刻版”として再生産したこともあったが、同じメーカーが同じように造っても、断然オリジナルのほうが音が良かったという。
「古典の名作を現代的な解釈で」なんて、ろくなことにならない。新しいことにチャレンジしなくなったら、ジャズもオーディオも衰退するばかりである。
【収録曲一覧】
1. Sweet Clifford
2. I Don't Stand A Ghost Of A Chance With You
3. Stompin' At The Savoy
4. I'll String Along With You
5. Mildama
6. Darn That Dream
7. I Get A Kick Out Of You