「2、3年前に阿川は私のところに電話をかけてきましてね、『いろんな理由で自分は隠居する。だから、これからはよほどのことがない限り会うこともないし、電話で話すこともないだろう』と話していました」

 人生の幕が下りることを予期していたのかもしれないと三浦さんは言う。

 阿川さんとは65年前後から交流が始まり、数カ月に一度会うほどの仲だった。阿川さんは“瞬間湯沸かし器”と命名されるほど短気で有名だったが、仲間たちからは愛されていた。

「一緒に電車に乗っていたとき、目の前にいた女子高校生たちが一人の子をからかっていた。その様子を見ていた阿川が急に怒りだしてね。女子高校生にも怒鳴りつけるような、単純素朴な怒りを我々も愛していた」(三浦さん)

 長女で作家・エッセイストの阿川佐和子さん(61)は7日、出版社を通じ、「身体が弱り切っても、頭の中は『うまいものが食いたい』という意欲を捨てなかったのは、いかにも父らしく、立派な大往生だった」と胸中を明かした。葬儀は近親者で済ませ、後日「しのぶ会」を開く予定。

(本誌・村田くみ)

週刊朝日 2015年8月21日号

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