ハローワークで仕事を探す人たち (c)朝日新聞社 @@写禁
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 安保法案と並んで与野党が激突する労働者派遣法の改正案が、7月30日に参院で審議入りした。かつて「新しい時代の働き方」として持ち上げられた派遣労働者だが、その実態は悲哀に溢れている。

 何の前ぶれもなかった。東京都内の大手総合商社に派遣社員として勤務していた安永百合さん(42、仮名)は一昨年のある日、雇用契約を結んでいる派遣元の女性社員から「(派遣先の)入館証を返してください」と言われた。出勤前だった。オフィスには、前日持って帰るのを忘れた私用携帯が残っている。ロッカーには私物もある。それでも入館証は取り上げられ、安永さんはオフィスに入ることができなくなった。

 思い当たる節はあった。安永さんの契約内容は「財務処理」。だが、実際には庶務の仕事が多く、企業説明会の受付などもしていた。

 現行の派遣法では、財務処理、通訳など26分野の専門業務に限り、無期限の派遣労働が認められている。ただし、業務中に専門分野以外の仕事をすることは労働者派遣法違反になる。違法状態で働かされていた安永さんは、派遣元企業の法務部にその内容を申告していた。安永さんは言う。

「入館証を取り上げられたのは、申告をした日の翌日でした。携帯電話を取りに行けたのは何日も後になってから。あまりのショックで過呼吸になり、寝込んでしまった」

 安永さんは、出勤を禁じられたまま2カ月ほど過ごした後、解雇された。その間の給料は、通常の6割程度しか出なかったという。

「派遣社員は、雇用形態のことでも給料のことでも意見を言えばクビ。別の派遣会社に移ってヘルプデスクの仕事をした時は、台風の日に雨靴を履いて仕事をしていたら『服装違反だ』と言われて、契約を打ち切られました」

週刊朝日 2015年8月14日号より抜粋