東日本大震災以来、安全神話が崩壊した原発。しかし、ジャーナリストの田原総一朗氏は「脱原発」の潮流に抵抗感があるという。その真意とは――。
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8月には九州電力川内原発(鹿児島県)が再稼働するとみられている。そして各紙の世論調査では半数以上が再稼働に反対している。
2011年3月11日の福島第一原発の深刻な事故で、国民の多くは原発に強い拒否反応を示すようになった。実は私は、原発が絶対安全とされていた1970年代から、原発には少なからぬ問題があると、テレビや雑誌で指摘していた。
だが、現在の「脱原発」の潮流には、逆に抵抗感がある。「脱原発」を主張する人々、そしてメディアも再生可能エネルギーを主軸にすべきだと力説するが、私は、少なくとも2030年代には、再生可能エネルギーは全電力の20%台にしかならず、原発を20%近くは稼働させざるを得ないととらえている。
その意味では、反対は強くても川内原発は再稼働させざるを得ないし、その後も各地の原発の再稼働が続くはずである。電力の9割を火力に頼っている現状はどう考えても異常であり、大気汚染の問題も大きい。
それにしても、この国の原発政策はずさんというか、総合戦略がよくわからない。理解できない戦略の一つが核燃料サイクルである。
日本原燃の使用済み核燃料の再処理工場は来年3月の稼働を目指して原子力規制委員会の審査を受けている。しかし、これまでに20回以上も完成時期が延びており、建設開始から実に22年がたっている。当初計画では7600億円だった建設費は、2兆2千億円に膨らんだ。
なぜこれほどのプルトニウムを保有することになってしまったのか。それは、核燃料サイクルのためであった。核燃料サイクルは、原発の使用済み核燃料を再処理してプルトニウムとウランを取り出し、ふたたび利用する仕組みである。経済産業省は昨年まとめたエネルギー基本計画でも、「核燃料サイクル政策の推進」を明記している。そこで、福井県にある高速増殖原型炉「もんじゅ」が登場することになる。
「もんじゅ」はかつて、燃料として燃やした以上のプルトニウムが得られる「夢の原子炉」ともてはやされた。しかし、1995年のナトリウム漏れ火災事故以後ほとんど止まったままであり、大量の点検漏れも発覚して、運転再開はまったく見通せていない状態である。
先進国の多くも高速増殖炉で冷却剤として使われるナトリウムの、水と激しく反応する性質に手を焼き、技術開発に行き詰まり撤退している。
「もんじゅ」の運転の見通しがないにもかかわらず、なぜ巨額のカネを使って再処理工場を稼働させようとしているのか。プルトニウムを使うプルサーマルが実用化してはいるが、非常に割高となり、これも先行きが見通せていない。
少なくとも、見通しがないのに巨額のカネが注がれている核燃料サイクルは凍結すべきである。こんなわけのわからないことをやっているから、国民の多くが反原発になるのだ。
※週刊朝日 2015年8月14日号