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本木雅弘さんには、“メジャーとマイナーを行き来する”ことを大切にしていた時期がある。20代で映画の世界に足を踏み入れたとき、映画の作り手たちの情熱に全力で応えようとする一方で、CDをリリースしながら、自分なりの“遊び”を楽しんでいた。回遊魚のように、“止まったら死んでしまう”という強迫観念に駆られていたのかもしれない。それが、NHKのドラマ「坂の上の雲」に出演した頃には、一気に仕事のスピードが緩んだ。
「3年間じっくり一人の人物を演じてみて、徐々に役が身体に染み込んでいく醍醐味を味わった。そのとき、あらためて仕事を掛け持ちする必要はないなと自覚したんです。もともと田舎育ちで、実家に広い土地も食料もある。いつダメになっても、帰る場所があるさ、と(笑)。諦めなのか余裕なのか、そんな境地に達し、スローペースでも質の良い体験を積み上げたいと思うようになりました」
役者が活かされるか否かは、やはり出会い次第だと考えている。映画「日本のいちばん長い日」では、昭和天皇を演じているが、その役も、「最初にオファーされた方のスケジュールが合わず、私にお鉢が回ってきまして」と役を引き受けるまでの経緯を包み隠さずに話した。
「あまりに畏れ多い役で、最初は迷いました。でも、昭和天皇を立体的に描くのは日本映画史上初めてだそうで、一応、プチ・パイオニアになれるのかな、と(笑)。それでも躊躇(ちゅうちょ)しましたが、最後は義母(樹木希林さん)に“ご聖断”を仰ぎ、“原田(眞人)監督は力がある人だから”と背中を押してもらいました」