新国立競技場の建設計画をめぐる迷走は、国民の怒りを増大させた。計画白紙を決めた安倍首相は「もう5年しかない」と担当大臣らにゲキを飛ばすが、新設計では本当に工費が抑えられるのか?
安藤忠雄氏は、デザインコンペの審査経緯を説明した資料(7月16日)で、コンペ主催者のJSCにこんな恨み言をつづっていた。
≪これまでのオリンピックスタジアムにはない複雑な要求が前提条件としてありました≫
ザハ案を採用した自らの責任を棚上げしているようにも聞こえるが、新国立競技場に“複雑な要求”があったことはたしかだ。建築のノーベル賞と呼ばれるプリツカー賞の受賞者で、デザインコンペに参加した伊東豊雄氏はこう話す。
「デザイン案で難しかったのは、屋根は開閉式なのに、芝生の条件が天然芝だったこと。開閉式屋根はコンサートなどの多目的利用が目的ですが、天然芝の上で10万人級のイベントを開けばすぐにダメになる。そのため、芝生を動かす巨大な装置が必要でした」
そもそも多目的利用は、五輪後の維持費負担を軽減するためだ。ところが、これが逆にコスト増の要因となっていたという。一級建築士で、建築エコノミストの森山高至氏は言う。
「天然芝で開閉式屋根の大分銀行ドームは、芝生の状態が悪く、09年にサッカー日本代表の試合が直前で変更されました。屋根を閉じると芝生がうまく育たないためです。屋根の故障も相次ぎ、4億円以上の修繕費も問題になっています」