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 再生医療のキモとなる「幹細胞」研究で世界的権威とされる中辻憲夫氏は6月末、京都大学教授を退き、再生医療関連のベンチャーの経営者となった。中辻氏は言う。

「私が創業に携わった、iPS細胞製品を手がけるリプロセルが一昨年上場し、出資リターンを手にしました。自分が何をするべきか考えたときに、これまでやってきた研究の産業活用をやろうと、昨年、2億円の私財を投じて、幹細胞と再生医療の二つのベンチャー企業を設立しました。京大の兼業規定ではフルタイムの教授は企業経営ができず、不自由でした」

 7月以降も非常勤で京大に籍を置くが、活動の中心は、再生医療のコンサルなどを行うベンチャー企業「幹細胞イノベーション研究所」と、自身らの研究成果を産業応用する「幹細胞&デバイス研究所」に移す。すでに、材料メーカーなどの再生医療ビジネスへの新規参入の支援をしたり、自身が開発した技術をもとにiPS細胞の量産技術の商用化を進めている。中辻氏は理学部出身だ。アカデミアからビジネスの世界へといま乗り出すのはなぜか。

「iPS細胞を使った臨床研究は、昨年、世界で初めて日本で始まりました。再生医療は日本が最先端と言いますが、本当にそうでしょうか。ES細胞を使った再生医療の治験では海外が先行しています。実用化というのは、誰でも手が届くコストで治療ができるということです。それには企業の力が必要です」

 昨年行われた理研の臨床研究では、移植する網膜の細胞を患者1人分つくるのに数千万円以上かかったとも言われている。

 これまで、医薬品といえば化合物を扱っていたが、再生医療では細胞そのものが医薬品となる。製薬会社が持つノウハウだけでは対応できない。

「治療用の細胞生産には最適化した培養装置が必要です。国内のある企業がつくった、iPS細胞の自動培養装置を調べたところ、実用化に向かないと驚きました。研究向けには装置のサイズとコストが大きすぎるし、臨床用の細胞生産にもニーズと不適合で使えない。もし私に相談してくれたら助言できたのにと、もどかしく感じました」

 中辻氏はこれまでも、自動的に細胞を量産する装置をニプロと開発し製品化してきたなど実績もある。研究者として世界を飛び回り培った人脈も生かし、大学と産業の懸け橋となる。

(本誌・長倉克枝、平井啓子)

週刊朝日 2015年7月10日号