今年5月、京都市内のある会議室は満席で、ビジネスマンの熱気にあふれていた。iPS細胞についての勉強会に、数十社の担当者が押しかけた。半導体メーカー、精密機器メーカー、食品メーカー、化粧品メーカーなどの顔ぶれが並ぶ。
「製薬会社はもちろんですが、これまで再生医療と縁がなかった半導体や電機などの企業からも最近では問い合わせが相次いでいます」
勉強会を主催するiPSポータルの村山昇作社長は顔をほころばせる。
同社は、京都大学が持つiPS細胞に関する特許を管理するベンチャー企業のiPSアカデミアジャパンから昨年分離。再生医療ビジネスへの新規参入の支援などを手掛けている。
一昨年、勉強会を発足すると、企業が殺到。会員企業はすでに120社を超える。本社がある京都市内で運営する、細胞を増やす装置などiPS細胞関連のビジネスのヒントになるショールームには連日、企業からの視察がある。
「昨年は1200人が訪れました。関東にも作ってほしいという声が多く、6月、千葉県柏市にも開設しました」(村山社長)
再生医療の実現に期待が集まるのは、医療を変えるだけでなく、産業への波及効果が大きいためだ。細胞を増やす装置や安全な輸送など新たなビジネス分野が開ける。
経済産業省の試算では、再生医療の市場規模は国内で2020年に950億円、30年に1兆円、50年に2.5兆円、世界では20年に1兆円、30年代半ばに20兆円、50年に38兆円に伸びると見込む。さらに、これまで研究領域に限定していた再生医療周辺産業の国内市場は20年には950億円、30年には5500億円、50年には1.3兆円に急成長するとしている。
再生医療ビジネスが盛り上がりを見せる背景には、再生医療を成長戦略の柱と位置付ける安倍政権の後押しが大きい。
安倍首相は13年1月、iPS細胞研究に10年間で1100億円を投じると表明。今年度は、160億円をかけてiPS細胞などの再生医療の実現を進める。