オーディオをやってると、時々、機器同士の相性で、「これとこれはどうしても合わないな」と、組み合わせを諦めなくてはいけないことがある。なにぶん高価な買い物だから、なるべくそういうリスクは冒したくない。合いそうかどうか慎重に考えて、エイヤッと買ったはいいが、うまく馴染んでくれない。そういう場合は潔く諦めて、採用を見送る。音が悪いのを我慢して聴くなんて愚かなことをしてはいけない。だが、もったいないからと我慢してる人って、意外と多いものだ。
ドラムのアート・ブレイキーと、ピアノのバド・パウエルとは、あまり相性がよくない。ブレイキーに合うピアニストといえば、セロニアス・モンクである。モンクはモンクで、マックス・ローチのドラムがイマイチしっくりこないようである。ローチといえば、やはりパウエル。全盛期のパウエルの早弾きスピードに合わせられるのは、ローチただ一人と言われたものである。
ベースとドラムなら、相性があるのもわかるが、ピアノとドラムにそれほど合う、合わないがあるのだろうか?
セロニアス・モンクのリバーサイド盤、『ブリリアント・コーナーズ』(ドラムはマックス・ローチ)と『モンクス・ミュージック』(ドラムはアート・ブレイキー)を比べてみるといい。どちらも甲乙つけがたい名盤ではあるが、ことドラムに関しては、後者つまりブレイキーのほうが安心して聴けるように思う。
ここに格好のサンプルを発見した。アート・ブレイキーの『パリ・ジャム・セッション』(Fontana)である。その名のとおり、アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズがフランス公演に行った際、現地に住んでいたバド・パウエル、それにバルネ・ウィランがアルトで加わったセッションの模様を収録したもの。
豪華メンバーの参加に、巴里っ子ならずとも期待は高まるが、パウエルのオリジナル、「異教徒たちの踊り」、「バウシング・ウィズ・バド」は、意外なほど単調。
前につんのめりながら弾くパウエルのリズムに合わせようと、ダーダーダーダーと拍の頭にアクセントをつけるブレイキー。これが、二人がしっくりこない理由ではないか。
B面つまり三曲目の「ザ・ミジェット」に移った途端、それがやがて確信に変わる。
パウエルが退いて、ウォルター・デイヴィス・JR.に変わっただけで、あのジャズ・メッセンジャーズの揉み手をしたくなるようなウラ打ちのグルーヴが復活するのである。
このときのピアノが、ボビー・ティモンズではないというのがミソで、ウォルター・デイヴィス・JR.であっても、ファンキーな「J.M.色」が濃厚に出てくるところがすごい。
この堂々としたブレイキーのドラムソロ、というより、ただリズムキープしてるだけにも聞こえるのだが、これこそブレイキーの、いやJ.M.を聴く醍醐味ではなかろうか。
続く十八番の「チュニジアの夜」は急速調の展開だが、パウエルのそれとはまるでスピード感が異なっている。
パウエルも好きなわたしは、世代の違いといって切って捨てたくない気持ちもあるが、やはりどんな名手であっても、ミュージシャン同士の相性というのがあるんだなあ、と深く考えさせられたレコードであった。
【収録曲一覧】
1. Dance Of The Infidels
2. Boucing With Bud
3. The Midget
4. A Night in Tunisia
Lee Morgan (tp),Barney Wilen (as[1][2]),Wayne Shorter (ts),Bud Powell (p[1][2]),Walter Davis Jr. (p[3][4]),Jymie Merritt (b),Art Blakey (ds)
[Fontana] 18,Dec. 1959."Theatre Des Champs-Elysees", Paris, France,