着実に勝利を掴んでいる横浜DeNAベイスターズ。そこには、選手の成長と中畑清監督の決断がうまくかみ合っていると東尾修元監督は解説する。

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 DeNAが順調に白星を重ねている。開幕から50試合近くが経過した。ここまでくれば、ある程度の実力がついてきていると自信に変えていい。4月までは「春の珍事」で頑張れても、ゴールデンウィークが明けると落ちてくる。しかし、これだけ安定した戦いができているのだから、一試合一試合を丁寧に戦っていけば、白星はついてくる。

 中畑監督のある言葉を見て、いい流れで用兵ができているなと感じた。5月16日の広島戦(マツダスタジアム)だったかな。井納に140球完投させたが、試合前に「きょうの試合はおまえにくれてやる。何点取られようが絶対に代えない」と伝えていたという。過去3年は借金生活が長かったこともあって目先の1勝をとることに苦心していたように思う。1勝することで選手に自信を持たせようという意図だろう。だから、将来のエースとして期待する投手に「1試合任せた!」なんて言えるようになっているということは、やっと中長期的ビジョンの中で戦えるようになってきたのだろうな。

 優勝を狙えるチームの監督は、ペナントレース全体を見据え、優勝するために足りない点を修正し、ストロングポイントをさらに伸ばす起用を繰り返す。ただそれは、ある程度計算できる部分を持っているチームだからこそできる。穴が多ければ、その穴を埋めるだけでシーズンは終わってしまう。弱小であればあるほど、穴埋めで手いっぱいとなり余裕は出てこないものだ。個々の選手の成長があってようやくやりたい用兵が可能になった。

 
 その裏には、中畑監督らしい思い切った決断もある。セ・リーグトップのセーブを積み重ねる新人の山崎康晃の守護神起用は、普通の発想ではなかなかできない。ドラフト1位だろう? 将来のチームの柱と考えるなら、キャンプ、オープン戦で結果が出なければ2軍から出直しをさせるのが自然の流れだ。投手出身の監督ならこんな発想は出てこない。プロの打者との力関係がまったく分からない。どの球種がどの程度通用するかは、シーズンが始まらないと分からない。しかも、9回という打者の集中力が一番高まるイニング。精神面の強さも含めて未知数だ。亜大ではエース。いくら大学日本代表で守護神をやったことがあったとしても、配置転換には勇気がいる。

 打線の中で昨年の盗塁王である梶谷を開幕から筒香の前の3番に据えた起用も見事だ。梶谷は左足首の捻挫で出場選手登録を抹消中だが、中畑監督が「心中する」とまで言った筒香の前にリーグ屈指の俊足選手を置いた。本来なら、主砲の前に出塁した走者は走りにくい。本塁打が出る可能性もあるから。それでも中畑監督は「どんどん走れ!」と梶谷に指令しているという。目の前で梶谷の足を警戒すれば、投手は落ちる球を投げにくくなる。筒香は球種を格段に絞りやすくなる。筒香の好調の要因には、梶谷の存在もある。

 これだけ貯金もできれば打順も変える必要はない。打線を固定できれば、各選手の役割も鮮明になってくる。試合を重ねるごとに、前後の打者とあうんの呼吸も生まれてくるものだ。

 夏場まで首位争いをしてほしい。そして8月からが本当の優勝争いとなる。全員で9月の重圧のかかるしびれる本当の戦いを味わってほしいよな。

週刊朝日 2015年6月5日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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