吉野ゆりえさん(撮影/岡田晃奈)
吉野ゆりえさん(撮影/岡田晃奈)
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 こんな私だから出来る事。こんな私にしか出来ない事。そんな事を考えながら生きていこうと──。

 今年4月、喉頭がんが再発して声帯を摘出したことを告白したロックバンド「シャ乱Q」のボーカリスト、つんく♂さん(46)が近畿大学の入学式で流した祝辞メッセージの一文だ。

「この言葉。私が『いのちの授業』で中高生に話すのとまったく同じです」

 吉野ゆりえさんは、そう言って何度もうなずく。元ミス日本で世界的プロダンサーとして活躍した彼女は10年前から、希少がん「後腹膜平滑筋肉腫」と生きるサバイバー(病気の経験者)だ。闘病しながら、視覚に障がいがある人たちの「ブラインドダンス」を指導したり、競技会の審査や司会をしたりしているほか、教育現場で命の大切さを伝える活動に励む。

 肉腫は希少がんのなかでもさらに少なく、“忘れられたがん”とも呼ばれている。がん細胞は血液とともに全身へ運ばれて筋肉や骨に病巣を作り、治療にはさまざまな診療科の協力が不可欠。だが専門医が少なく製薬会社の関心は薄く、誤診されるケースもあった。

 そんな実態に患者として直面した吉野さんは、肉腫を専門的に診る「サルコーマ(肉腫)センター」の必要性を感じ、開設を求める運動の中核を担った。2009年に国立がん研究センター中央病院(東京都中央区)に、12年にはがん研有明病院(東京都江東区)に、それぞれ立ち上がった。ここでは比較的、肉腫治療の経験豊富な整形外科医を中心に、外科や内科、放射線科などの医師が集まり、一人の患者を複数の診療科が連携して治療をする。

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