ジャズとタンゴの融合
Tangofied / Torben Westergaard + Diego Schissi (Cloud)
他ジャンルの音楽を取り入れて発展してきたのがジャズの歴史である。本作はジャズとタンゴの融合をテーマに制作された大きな成果だ。
リーダーのトーベン・ヴェスタゴーは1960年デンマーク生まれ。20代になってからエレクトリック・ベースとウッド・ベースを独学で習得したという遅咲きだった。しかしそこからアルバム・デビューまでが早かった。80年代後半から90年代前半の約7年間をアメリカで生活。その間に初リーダー作を吹き込んでいる。89年のニューヨーク録音と90年のコペンハーゲン録音の2つのセッションで構成した『What I Miss』。前者にはジョン・アバークロンビー、ケニー・ワーナー、アダム・ナスバウムが参加し、後者にはハンス・ウルリク、トーマス・クラウセン、アレックス・リール、マリリン・マズールが参加しており、無名の新人とは思えない豪華版だ。南米でも生活したトーベンはマル・ウォルドロン、ジミー・コブ、デイヴ・リーブマン、チコ・ハミルトンの米国人ベテランから、ギル・ゴールドスタイン、クリス・ハンター、アダム・ホルツマンらのトップ・ミュージシャン、さらにエルメート・パスコアール、アイアート・モレイラ、キップ・ハンラハンといったジャズ本流とは別の個性派と、実に多彩な共演歴を誇る。
キューバ音楽やラテン・ジャズへと興味を拡大したトーベンは、母国でタンゴを踊り、ブエノスアイレスでレッスンを受けた経験を通じて、作曲家・音楽家としてもタンゴを探求。
北欧音楽や北欧ジャズの精神とタンゴの感覚に、メランコリーと内省的なセンスや、旋律的な面を強調する共通点があると感じ、自身の思いは次第に本場のアルゼンチンへと向かっていった。チェロ、アコーディオンを含む“オクトーバー”のバンド・コンセプトをさらに発展させたプロジェクトを実現するために指名したブレーンが、ブエノスアイレス出身でジャズにも精通するディエゴ・スキッシである。地元でのレコーディングを依頼されたスキッシは、自身のレギュラー・バンドを起用するのが最善だと判断。自宅をリハーサル用に提供し、スタジオに入った。
アルバムはゆったりとした空間の中でメンバーが主張と共鳴を重ねる#1で幕を開ける。アストル・ピアソラとの関連を想起させる#2、哀愁を帯びた旋律が寄せては引く波のように感情を揺さぶる#3、異なる音楽文化の融合を祝したかのような「スカンディナヴィア」+「ミロンガ」の#4等々、緊張感を持続させながらラストまで一気に聴かせる。エレクトリック・ベースを奏でるリーダーとして、ピアノ+ヴァイオリン+チェロ+バンドネオン+アコースティック・ギターとの個性的な共鳴を成功させた才人の音世界を堪能してほしい。
【収録曲一覧】
1. Uno Dos Tres
2. Connecting Flights
3. What’s In A Dream
4. Scandilonga
5. Open Up My Heart
6. Never Waste A Waltz
7. Earth Matters
8. Femme Vidala
9. Hope And Fear
10. Time Waits For No One
トーベン・ヴェスタゴー:Torben Westergaard(el-b)
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ディエゴ・スキッシ:Diego Schissi(p)
2012年1月ブエノスアイレス録音