相次ぐ「政治とカネ」問題。しかし、政治資金規正法に違反していても、実際に政治家が責任を問われることは少ない。ジャーナリストの田原総一朗氏は、その現状に憤りを感じている。

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「政治とカネ」の問題で、与野党の有力政治家たちの名前が次々と俎上(そじょう)に上がっている。

 政治資金規正法は、国から補助金の交付を受けた企業に対して交付決定通知から1年間、政党や政治資金団体への寄付を原則禁じている。補助金の原資である税金が政治献金のかたちで政治家に還流することを防ぐためである。

 最初に疑惑を指摘された西川公也前農相が辞任した後、望月義夫環境相、上川陽子法相などの政党支部も補助金交付企業から寄付を受けていたことがわかり、野党から厳しい攻撃を受けた。新聞やテレビでも、批判の記事が躍った。

 ところがその後、読売新聞の調査で、自民党では安倍晋三首相をはじめ高村正彦氏、大島理森氏、甘利明氏、林芳正氏、石原伸晃氏など、野党の民主党でも岡田克也代表をはじめ玉木雄一郎氏、福山哲郎氏、岸本周平氏、武正公一氏などの名前が次々と挙がってきた。いずれも国から補助金の交付を受け、交付決定通知から1年を経ていない企業から寄付を受けていたのである。

 政治資金収支報告書をさらに詳細に調べていけば、他にも少なからぬ政治家の名前が出てくるはずである。補助金交付企業による政治献金は日常茶飯事となっているわけだ。

 ところで、現在の制度では規正法に違反して献金した企業側は刑事責任を問われるが、政治家側は補助金の交付決定を知らなかったと主張すれば、責任を問われない。そのために、政治献金を受けていたどの政治家も疑惑に対し「補助金の交付決定を知らなかったので、違法性はない」と主張している。

 そもそも政治家個人への企業・団体献金は禁止されているのだが、政治家が自らを代表とする政党支部をつくれば、企業・団体献金の受け皿となり、多くの政治家が、このかたちで献金を受けている。

 政党支部であっても実際には政治家個人への献金と同じであり、国民からみればゴマカシではないかと思える。そのうえ、補助金の交付決定を知らなかったと主張すれば責任を問われないというのは、どうみても“ザル法”ではないか。

 民主主義にカネがかかることは、私は少なからぬ政治家に話を聞いてよくわかっている。しかし、多くの政治家が補助金交付企業から献金を受け、誰もが「交付決定を知らなかった」と同じようにしらを切るのを見ると、政治家はウソをつくのが当たり前のようになっているのかと、いかがわしさを感じざるをえなくなる。こういう政治家たちが「国家のため」といかに強調しても、リアリティーが感じられず、政治の世界を信用できなくなる。

 それに、企業・団体献金を出す側は、当然ながら献金を受けた政治家がその企業・団体に何らかのかたちで利益をもたらしてくれることを求めているわけで、献金を受けるということは、そのことを諾としていることになるはずだ。

 私は今、与野党の政治家たちが、政治資金規正法というものを真摯に考え直す時期に来ていると思う。特に、財政赤字が1千兆円を上回り、国民に相当の痛みを伴う負担を求めざるをえないこの時代に、うさんくささの付着した政治家の主張を真摯に国民に受け止めさせるのは困難である。難しいとは思うが、企業・団体献金の全面禁止に向けて重い腰を上げるべきである。

週刊朝日 2015年3月20日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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