後藤健二さんが撮影した映像の中に、こんなシーンがある。2003年のイラク。爆撃で小学校が閉鎖され、新1年生のジョマナ(7歳)は楽しみにしていた学校に通えない。せめて学校を見せてやりたいと、連れていった父親と、空っぽの教室でつかの間の学校ごっこ。ジョマナは心から嬉しそうに微笑み、埃の積もった机の上に、アラビア語で自分の名前を書いた。

「『テロとの戦い』とわたしたちがまるで記号のように使う言葉の裏側で、こんなにたくさんの人たちの生活がズタズタに破壊されている」(『もしも学校に行けたら』から)

 後藤さんは、戦争が膨大な一般市民の悲劇を生むことを訴えてきた。その視線が、生きることが耐え難い過酷な環境でのふとした親子の愛情や、子どもたちの夢に注がれていたことが伝わってくる。

 後藤さんの友人である映像制作会社代表の西前拓さん(52)がフェイスブックにつくった「I AM KENJI」のページは、世界中から5万人超が賛同した。

「弱い人に寄り添い、手を差し出す。これは、ジャーナリストでなくとも、誰もができること。『I AM KENJI』のメッセージは、健二の魂の象徴として、これからも発信し続けます」

週刊朝日 2015年2月20日号