『HOOTIN' N' TOOTIN'』
『HOOTIN' N' TOOTIN'』

  こよなく愛読している世界最強にニッチなジャズ雑誌で「レコードで聴く事しかできないジャズ」という連載対談がありいつも興味深く拝読しております。そもそもその某誌には数多くのジャケットが並んでいますがほとんど分かりません。レコード番長などと名乗っておきながら(正確には名乗っていません。とある方が流布してくれた愛称です)何たる体たらく。しかしそこでレコード掲載に協力している方々は日本でも屈指のジャズマニアにして大ベテランの方々、ないしは異常な情熱を持って日々レコード収集にいそしむコレクターのお歴々ばかりですので体たらくさもありなんとあきらめてはいますが。僕らDJの収集目的は「フロアで使えるかどうか」の一点突破ですので「良い演奏」や「バラード」「アバンギャルド」などはまずスルーしてしまいます。なので注釈なしで紹介している盤に関しては基本「踊れる」と思って頂ければ結構だと思います。

 そんなわけで何の躊躇もなく、よく分からない自主盤なども集まってきます。特にこのジャンルに関してはアメリカの懐の広さは他国に追随を許しません。許さないどころかどこまでも追っかけてこられるような怖さも感じます。次から次へと出て来る上に、何てこともないレコードなんだけれどもその「一点突破」に関しては光るものがある。しかも見た事のない自主盤。レコード店でもおそらく値段をつけづらいのでしょう。普通でいえばそんなもんなんだろうなーと思えるような価格でエサ箱に収まっています。それを僕のような者が紹介したとします。ヘビープレイをしたとします。そういう経緯を経て、買った時に¥2,000だったレコードが一年後には¥50,000になってしまっているという笑えない状況が過去によくありました。日本盤だけのイクスクルーシブという形でCD化されたりとか。そういう特に日本に顕著な事例を引き起こすのも大抵アメリカの自主盤です。と、自主盤のせいにしてますが(笑)

『SPIDER BURKS presents LEO'S FIVE / ST』というおそらく50年代末頃の録音であろうと思われるアルバムがあります。ジャケット中央に写る陽気のいいおじさんは地元のベテランラジオDJでこのバンド及びこのバンドの主戦場のジャズクラブの司会者だそうです。そのジャズクラブとはセントルイス『ブルーノートクラブ』でレオ・グッデンなる経営者兼ボーカリストにより運営されており、つまりこの「LEO'S~」というのはクラブの箱付きバンドに演奏させた正真正銘の自主盤ということになります。

 実はこういったケースはよくあって、ただし!聴くべきところは全くないものが多いのです。実際その(ビリーホリディに影響されたという)ボーカル曲は全くのシットですがインスト曲にリズム設定の立ったハードバップが収録されており、その曲を実際によくプレイします。背伸びしてDJブースに覗き込みにくるファンが多いのもこの曲です。

 草稿にあたり詳細なクレジットを調べたところフレッド・ジャクソン(s)の名前が。プロフィールにはロイド・プライスやライオネル・ハンプトンの名前もありググってみたところこのフレッド・ジャクソンとは、'62年にブルーノートから『HOOTIN' N' TOOTIN'』という唯一のリーダー作を発表したその人なんじゃないかなと辿り着きまして。そうするとジミー・スミスのアルバムにもクレジットがあるし、レオのブルーノートクラブとその仲間達は意外な人材を輩出しているんだー!と少し可笑しくなってしまいました。こういった発見ができるのもUS INDIEならではの楽しさなのでしょうか。