賛否両論あるなか、昨年、日銀が発動した追加の「異次元金融緩和」。否定する識者のなかには今からでも止めるべきだとの声もあるが、“伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏は、無理だという。

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 1月7日付の日本経済新聞の経済教室に、慶応義塾大学の竹森俊平教授の論文が載っていた。

安倍晋三首相がアベノミクスへの信任投票と位置づけた昨年暮れの衆院選だが、与党が大勝した選挙結果よりも、目玉商品である日銀の異次元金融緩和に対し、即時停止といった強硬な反対を唱えた野党がいなかった事実が信任の意味を持つ」の書き出しを読んでウーンと唸ってしまった。

 わが維新の党のスタンスはともかく、私自身は異次元量的緩和には大反対である。しかし、だからと言って、わが党が「異次元金融緩和の即時停止」を公約に掲げるよう党内で私が体を張って頑張れたか?と言われれば、それも疑問なのだ。異次元金融緩和を即時に停止すれば、即時に国が資金繰り倒産してしまうからだ。そのことを国民が理解しているとは思えない中で、その判断を国民に問うのは国民にとっても、わが党にも酷な気がする。

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 量的緩和という言葉のせいか、識者やマスコミは、この政策を「世の中に資金を潤沢に供給する」目的としか理解していないようだ。しかし実際は、政府の財布が空っぽになるのを防ぐための政策なのだ。あらゆる機関がいま、国債を売り越しており、国債保有を増やしている機関は日銀以外にない。日銀が手を引けば国の財布の半分近くは空になってしまう。

 それゆえに「異次元金融緩和の即時停止」はうかつにはできないのだ。

 私はマイナス金利政策論者だが、日銀にある民間銀行の当座預金の「残高極小化」を図るマイナス金利政策と、「残高極大化」を図る量的緩和政策とは百八十度異なる政策だ。一度、量的緩和政策を始めてしまった以上、日銀は軌道修正は不可能なのだ。出口がないからだ。だから私はハイパーインフレを怖がっている。

「デフレ脱却、これしかない」「アベノミクスで経済は回復している」と自民党政権は自慢するが、この20年間で、国の実力とも言うべき名目GDP(国内総生産)は米国と英国は2.4倍、中国は15.9倍に増加しているのに対して日本は3%減少している。日本は国の実力が伸びなかったのに、累積赤字は世界最悪まで積み上がった。そしてデフレも進行してしまった。過去20年間の自民党の経済政策は大失敗だったとしかいいようがない。この1~2年だけの動きを見て「アベノミクスで経済は回復している」などと自慢されたくはない。

 これだけの低迷は「イノベーションの力が衰えた」「女性が活用されていなかった」とかいう理由では説明がつかない。根本的な問題に手をつけなかったのが原因だ。国力に比べて円が強すぎたのだ。私の二十数年来の主張である。

 円が安くなると、アジアの近隣諸国は通貨高になるので、必ずや「近隣窮乏化政策」だと非難する。自国通貨が強くなると、その国が窮乏化するということだ。円は1974年以降、147カ国中スイスフランに次いで2番目に強くなった。世界で2番目に窮乏化を進めたことになる。これが自民党政権の経済政策の大間違いだと、私は強く思っている。

週刊朝日 2015年2月13日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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