・雲南省昆明駅前で、少数民族ウイグル人の「暴徒」による無差別集団殺傷事件が発生。29人が死亡、143人が負傷(3月1日)。
・新疆ウイグル自治区ウルムチ市の漢民族の朝市に車両が突っ込み、十数回の爆発が発生。31人が死亡、94人が負傷(5月22日)。
・新疆のヤルカンド県で騒乱が起き、当局発表で37人が死亡。ほか当局が「暴徒」59人を射殺、200人以上を拘束。実際の死者数は千人以上との説も(7月28日)。
以上は昨年1年間に中国で発生した、イスラム教を信仰する少数民族・ウイグル人に関連する事件のごく一部だ。治安部門による掃討を含めた数人規模の死傷事件は、新疆では月に1回以上の頻度で起きている。
中国当局は、こうした事件が発生するたびに「組織的・計画的なテロ」とする見解を述べ、東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)というイスラム過激派組織が、黒幕として名指しされることも多い。また、「ウイグル人とみられる数百人がイスラム国で活動」とも発表している。
だが、ETIMは03年の創設者の死亡を機に活動が衰退、組織の実在を疑問視する声すらある組織だ。事実、ある在日ウイグル人は「一連の事件の多くは、過激なイスラム思想よりも民族問題が原因」だと話す。
中国共産党は90年代半ばから、中華民族ナショナリズム(事実上の漢民族中心主義)を掲げた国家統治を採用。そんなイデオロギーを背景に、新疆では漢人移民の激増や経済支配の強化、現地の文化背景を顧みない開発政策などが進み、少数民族の不満が高まった。
彼らの異議申し立てに、当局が強硬一辺倒の対応に出ていることが、より強い反発を招いている。
「新疆ではどこに行っても漢人の武装警察に銃を向けられる。密告網も徹底しており、近年はコーランを所持しているだけで連行されます。私はテロに反対ですが、一連の事件が、民族の尊厳を奪った中国への最後の抵抗なのです」(同)
事実、現地では結婚式の準備に集まったウイグル人が「違法な集会」として掃討される、信号無視をした17歳の少年が警官にその場で射殺されるなど、残酷な事態が常態化している。
終わりなき危機と迫害に直面した人々が、最後の武器として信仰を掲げて抵抗を図る──。かつてアフガンや中東で、泥沼の内戦と欧米支配への反発感情からタリバンやイスラム国などの「過激派」が生まれたのと、思想的には酷似した構図が出現しつつあるのだ。
本来は宗教色が薄かったはずのウイグル民族問題。それを東アジアで初の「イスラム過激派問題」に変質させかねないのは、ひとえに中国の少数民族統治政策の拙劣さなのである。
(ジャーナリスト・安田峰俊)
※週刊朝日 2015年2月13日号