資本主義の限界が、社会を壊す──。トマ・ピケティの『21世紀の資本』(みすず書房)がいま売れている。5940円もする大著だが、驚きの12万部突破。菅直人内閣の官房長官を務めた仙谷由人氏(68)も薦める。常識を覆した功績があると評価されている、その中身とは?

【書評 ベストセラー読解『21世紀の資本』】

 一つ目は「r>g」の法則だ。言い換えれば「資本収益率(r)は経済成長率(g)より大なり」。ピケティは、この法則こそが世界中で問題となっている格差拡大の根本原因だという。

 その中身はこうだ。日本を含む欧米の資本主義国で、土地や株式などをたくさん持つ富裕層が、1年間で投資から得られる平均収益率(r)は4~5%。一方、経済成長の恩恵を賃金として受け取る一般人の所得の平均伸び率(g)は、1~2%程度にすぎない。だから経済が順調に成長しても、より大きな利益を得るのは富裕層であり、今後も格差は広がり続ける。

 この法則は、世界20カ国以上の税務統計を過去200年以上にわたって集計・分析することで明らかになった。朝日新聞元経済部長の小此木潔・上智大学教授は言う。

「シンプルな法則ですが、これが経済学の世界に与えた衝撃は大きい。主流派経済学では『資本主義が発展すると、一時的に格差は広がるが、やがて縮小する』というのが定説でした。ところが、ピケティは膨大なデータを分析することで、こういった楽観主義を粉砕した。ノーベル経済学賞以上の業績といえるでしょう」

 二つ目のポイントは、格差が縮小した時期についての緻密(ちみつ)な分析だ。同書によると、20世紀初頭まで格差は拡大し続けてきたが、1910年代から70年代は縮小に転じていた。

 その理由は明快だ。19世紀末から20世紀にかけて世界各国で所得への累進課税が導入され、さらに大恐慌や2度の世界大戦が起きた。それで富裕層の資産が減少したのだという。

 だが、それは例外的な時期だった。80年代に入ると再び格差拡大の時代になる。例えば米国では、81年に誕生したロナルド・レーガン政権によって富裕層や企業への減税が実施された。その結果、21世紀に入ると、米国内の格差は100年前の水準に戻ってしまった。評論家の中野剛志氏は言う。

「資本主義がむき出しになったことで、現在の米国では7人に1人が食料援助を受けています。ところが、米国が最も経済成長し、文化的にも輝いていたのは戦後から70年代。政府の規制や税制は今より厳しかった。規制緩和や富裕層への減税は、必ずしも経済成長に貢献するわけではない」

 格差の拡大が経済に悪い影響を与えるとの指摘もある。OECD(経済協力開発機構)は昨年12月に発表した報告書で、所得格差の拡大は、所得下位層40%にいる若者の教育水準低下につながると分析している。一方、格差是正のために教育や医療などの公共サービスを充実させることは「景気拡大を損なわない」という。中野氏は続ける。

「ピケティの理論から『日本は成長をあきらめて、格差を是正すべきだ』と考える人がいますが、それは間違い。正しくは『経済成長と格差是正は両立できる』ということなのです」

週刊朝日 2015年1月23日号より抜粋