『殉愛』の中でHさんは、たかじん、さくら夫妻に事あるごとに冷たい態度で接し、たかじん氏はそんな娘を疎んじていたと描かれている。そんなHさんの作中における性格を象徴する場面が、冒頭に出てくる「やしきたかじんを偲ぶ会」の一コマだ。
たかじん氏の死から2カ月後の3月3日に大阪市内のホテルで開かれたこの会で、さくら氏が壇上であいさつした際、百田氏自身の目撃談として、次のような場面が描かれている。
<このとき、奇妙な光景を目にした。未亡人が挨拶している間、一人の中年女性が「早(は)よ、やめろ!」とか「帰れ!」などと大きな声で野次を飛ばしていたのだ。私の周囲にいた人たちが小さな声で、「たかじんさんの娘さんらしいで」と言う声が聞こえた>
夫を亡くしたばかりの妻に大勢の前で罵声を浴びせるこの場面を読んだ読者の大半は、Hさんに悪印象を覚えるだろう。だが、当のHさんはこの記述を真っ向から否定するのだ。
「私は野次など飛ばしていません。さくらさんのあいさつの間、会場は静まり返っていた。私は他の親族と一緒に会場の端に固まって座っていましたが、そんな不謹慎な発言は聞いていません。おばあちゃん(たかじん氏の実母・今年5月に他界)は耳が遠く、周りが静まり返ったタイミングで『(さくらさんが)今から何か言うんか?』と大きな声で私に聞きましたが、それだけです。野次などはなかった。私は会場で百田さんにお会いしていないし、そもそも今に至るまで一度も会ったことがありません」
Hさんの弁護団が、会の進行を記録した録音を確認したが、野次は聞き取れなかったという。
(本誌取材班)
※週刊朝日 2014年12月19日号より抜粋