12月10日の施行日が迫る特定秘密保護法──。政府による“情報隠し”“言論弾圧”という疑義が残る同法に対し、児童書出版の関係者らは「子どもたちの幸せにつながるとは思えない」とフォーラムなどを開き、今も反対を訴え続けている。ベストセラー作家・あさのあつこ氏もその危機感を露わにする。

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 法律を新たに作ったり、憲法を改正したりするために議論をすることは悪いことではありません。ただ、特定秘密保護法や集団的自衛権の行使容認など、最近の一連の動きには、議論の跡が少なく、国民に理解してもらおうという姿勢も感じません。戦時中に戻るかのような法律が、国民の意思とは全く別のところから生まれています。こんな恐ろしいことはありません。

 国が国民の自由を縛る特定秘密保護法とは、いったい誰のための法律なのでしょう。原発をめぐっても、後から後から国民に知らされていなかった事実が明らかになる。政府にとって都合の悪いことを軒並み隠してしまうのだろう、と思わざるを得ません。国家機密とは、日本を含めてどんな国にも存在するものなのでしょうけれど、これ以上、いったい何を秘密にしたいのでしょうか。

 私は、生まれ育った岡山県美作市でずっと家族と暮らしています。商店街にはシャッターが下り、1日1食で命をつないでいるお年寄りがいて、子どもを進学させるだけの収入がないと嘆く母親がいます。地方にいると、不況、貧しさを日々目の当たりにします。もっと優先すべき政治課題は山積しています。

 2012年12月、第2次安倍内閣がスタートしてから、あまりに急激に事態が進み、非常に独裁的であると危機感を覚えています。その一方で、ここまで押し流されてしまったわれわれ国民の鈍さにも危機感が募ります。もっと強く徹底して声を上げていれば、食い止めることができたかもしれない。「どうして、こんなことになったのだろう」と思いつつ、この社会全体を覆いつつある根っこのない雰囲気は、私の世代がつくり出してしまったものだとも思っています。

 私は安倍首相と同じ1954年生まれで、今年60歳になりました。終戦後に生まれ、高度経済成長期とともに年を重ね、バブルを経験。「明日は今日よりよくなる」と信じて疑いませんでした。野原に自然に花が咲き、自然に葉が落ちるように、平和な日常は当たり前にあり、永遠に続くと信じてきた世代です。心の底では「戦争なんて起きるわけがない」と思っているのです。安倍首相も同じなのではないでしょうか。マイクを通し、刺激的なフレーズを伝えていますが、本当の戦争の意味はもちろん、特定秘密保護法がもたらす結果もよくわかっていない──。そんな私の世代の雰囲気は下の世代に伝わり、危機感が喪失している状態で、戦時中に戻るかのような法律が成立してしまったのではないでしょうか。

「誰かに支配されることなく生きていこう。自分たちの暮らしを、より良いものにしていこう」

 物書きのひとりとして、作品にはそんなメッセージを込めてきました。これからも強く訴えていきたいと思っています。 

(構成 本誌・古田真梨子)

週刊朝日  2014年11月21日号