スポットライトがあたるステージで、揃いのコスチュームを着た5人の若い男女が歌い終わると、ワイシャツにノーネクタイ姿の男性が登場し、「中国CEOの小澤秀樹です」と流暢な英語で自己紹介。「ただしChief EntertainmentOfficerだけどね」と言うと、会場は沸いた。

 昨年11月20日、キヤノン中国は北京市内の外資系ホテルで220人の大学生を対象に会社説明会を開いた。ネットを通じて応募してきた2400人(北京)から、英語テストと適性検査に合格した学生が招かれていた。

 中国では例年、4年生の秋が就職活動のヤマ場だ。日系企業にとって優秀な中国人の新卒人材を確保する採用シーズンを前に、昨年は一気に日中関係が悪化、企業は頭を悩ませた。

 だが、蓋を開けてみれば、キヤノン中国の場合、応募者数は北京、上海、広州で7千人。前年の3千人を倍以上上回った。

 同社は5年前から現地採用を始め、現在は年間250~300人を採用する。昨年も年始から冒頭の新卒採用イベントの準備を始めていた。そこに突然の尖閣諸島の国有化決定。だが、小澤はこう社内に伝えた。

「経済は政治とは無関係という前提は守るべき。必要な業務はこれまで通りに進める」

 それどころか、

「日系企業は退屈な説明会が多い。日中関係の悪化で日系企業に悪印象を持っている学生は多いはず。その印象を覆そう」

 人事部長の森川剛志の演出によりステージで歌った5人の若者は2012年度の新入社員。小澤のスピーチに続いてカナダ人と中国人のマネジャーがやはり英語と中国語ミックスでスピーチした。

 CEO自らギャグを連発し学生と歌い踊るというノリはすべて計算の上。学生たちは「日本企業に対する厳格で憂鬱な印象を吹き飛ばした」「いろんなテイストの英語が面白かった」と中国版ツイッターで呟いた。

AERA 2013年2月18日号