作家の亀和田武氏が週刊朝日で連載している雑誌評論。今回は、村上春樹氏のスクープ記事?
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村上春樹「ドイツ大麻パーティ」。宅配スポーツ紙をのんびりめくっていると、週刊誌広告の大きく煽情的な文字が飛びこんできた。
てぇ。脱法ハーブ改め危険ドラッグの摘発が進むいま、このスクープで、春樹サンは第2のASKA被告にされてしまうのか。
コンビニで「週刊アサヒ芸能」(徳間書店)8月14・21日号を購入し、巻頭のどアップ写真を見ると……なんか変。すごく若い。袋とじを開くと30年前「ブルータス」のドイツ取材時のものという。
文壇タブーの文字も躍る。仕事の付き合いがない「アサ芸」だから出来たスクープだ。
しかし30年前の写真を、いまなぜという割り切れなさは残る。ドイツ取材で“写真も撮れる運転手兼ガイド”をつとめた地元の駆け出しカメラマンの提供だ。「フィルム整理をしていたところ二十数年ぶりに見つけたのです」「別に彼をおとしめようとか、批判しようとかという気持ちはない」と断ってから「本人もマリファナ好きを公言している」。「その彼が若い時にこのようにマリファナを楽しんだということを彼の“ファン”も知りたいと思ったからだ」
余計なお世話だ。ファンからそう反撃されたら、言い返せないレベルの動機だ。昔、みんなが大麻でラリッていたとき、こっそり撮った写真を無断で使って商売することの後ろめたさが、ありありだ。
編集部もただの暴露写真ではなく、このドイツ体験が後の『ノルウェイの森』を生む契機になったのではという仮説を、カメラマンと書評家のコメントを使い呈示するのだが、説得力は薄い。しかし、「アサ芸」でさえ触手を伸ばしたくなる知名度と個性が春樹氏にあることだけは判った。
※週刊朝日 2014年8月22日号