1強多弱を誇った安倍政権の支持率がじわじわと落ち、野党再編のチャンスが到来している。キーパーソンの一人、民主党の前原誠司衆議院議員(52)は何を「反安倍」の対立軸に掲げ、いつ引き金を引くのか――。ジャーナリストの田原総一朗氏が、激しい論戦を仕掛け、本音を引き出した。
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田原:内政はどうですか。アベノミクスに対して野党は批判するばかりですが、国民には聞いている余裕がない。おれたちはこうする、という対案はないんですか。
前原:民主党は2030年代に原発ゼロを目指していますから、私は成長戦略の柱の一つは、再生可能エネルギーだと思っています。
田原:再生可能エネルギーを、30年まで何%くらい導入することを見込んでいるんですか。
前原:いや、そこまで緻密な計算はしていないですね。化石エネルギーをどこまで減らせるかと、シェールガスをどれだけ日本に持ってこられるかによります。
田原:ここがいちばん問題で、民主党含めて、野党の弱さはシミュレーションをやっていないことだと思いますよ。もう一つ聞きたいのは、民主党政権時代の12年9月、「2030年代に原発ゼロをめざす」という新エネルギー戦略をつくっておきながら、閣議決定できなかったことです。なぜ、紙切れにしてしまったのか。
前原:紙切れにはなっていないですよ。
田原:閣議決定してないじゃないですか。
前原:ポイントは一つだけで、高速増殖炉の問題なんです。
田原:あれは、アメリカに脅迫されたんですよね。
田原:核兵器の原料にもなるプルトニウムの保有は、平和利用を前提に、核保有国以外では日本だけが認められているんでしたね。
前原:もう一つは青森です。高速増殖炉をやらないということになると、六ケ所村の再処理施設などに貯蔵されている使用済み核燃料がゴミになってしまう。
田原:青森県が、六ケ所村に預かっている核燃料を全部返すぞと言ってきて、困ってしまった。
前原:そうした問題で、高速増殖炉の部分だけは、文言を変えざるを得なかったんです。
田原:だけど、新たに原発は造らないと言いながら、建設中だった大間原発と島根原発3号機は認めたじゃないですか。
前原:認めてはいないですよ。経産省は認めるという話をしていましたが、我々民主党としては、今後の検討課題としたわけです。
田原:そこが曖昧だと、自民党に対抗できない。私は民主党を中心として野党が再結集することに期待しているんですからね。ところで、滋賀県知事選では、「卒原発」を掲げた嘉田由紀子知事の後継者で元民主党衆議院議員の三日月大造氏の健闘が伝えられています。私にも自民党幹部から「困っている」という電話がありましたよ。
前原:集団的自衛権行使容認の閣議決定で、安倍政権の支持率が落ちていることも影響しているようです。
前原:これは、社会保障に手をつけないとダメです。歳出カットと負担増と、両方やらないといけない。
田原:自民党がずるいのは、消費増税のときには民主党と一緒に「税と社会保障の一体改革」と言っておいて、社会保障に全然、手をつけない。社会保障を切ると言ったら選挙に負けるからと、ごまかしている。
前原:私は、個人の資産を把握できるマイナンバー制度が鍵だと思っています。高齢者の方でも、資産があれば医療費の一部負担増をお願いするとか、ある程度、社会に協力していただく。若者だけに負担を強いるわけにはいきません。
田原:ドイツのシュレーダー前首相は失業保険の期間を短くしたり、解雇の条件を緩和したりして、ヨーロッパの病人と呼ばれたドイツを復活させた。前原さんにはこれくらいやってほしい。自民党はずるいから、シュレーダーのようなことはできないんですよ。でも前原さんというと、八ツ場ダム建設中止のときの印象が強いんだよね。言うだけ言って、やっていないという。
前原:それで「言うだけ番長」と言われるんですが、ほかにも日本航空の再建や羽田空港の国際化、関西国際空港と伊丹空港の統合、武器輸出三原則の見直し、そしてクリントン米国務長官からはオバマ政権として初めて「尖閣は日米安保条約第5条の適用範囲だ」と言質をとるなど、いろいろやったんですけどね。
田原:そういうことが伝わらず、やれなかったことだけが伝わってしまう。
前原:まあ、「番長」って好きな言葉だからいいんですけど(笑)。
田原:前原さんは打たれ強いから良いんですよ。批判されるのが怖くて、民主党は何も言わなくなっちゃった。前原さんは、相変わらず言っているからえらい。
前原:ありがとうございます。これからも頑張ります。
(本誌・小泉耕平)
※週刊朝日 2014年7月25日号より抜粋