元・株式会社ライブドア代表取締役CEO、堀江貴文氏は「バイラルマーケティング」の影響力を身をもって感じたという。
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とあるオンライン・メディアで某食品メーカー社長と対談をすることになった。日本経済が低迷しているのは、マーケティングの不在だという話で同意した。
新興国・発展途上国では、自動的に人口が増えて経済発展をするので、いい製品をつくって営業すれば自動的に製品が売れていく。つまりマーケティングの必要はなかったりする。ただ単にテレビ局に広告会社経由でCMをバンバン流せばいいだけの話だ。だから高度経済成長期の日本はそれでよかった。
でもバブルがはじけて経済が低迷して、この20年間、企業はもちろんのこと、日本のあらゆる分野でマーケティングの不在が露呈してしまっている。
グローバル企業ではマーケティング部門が会社の中心にあるし、マーケティング部門出身の社長も珍しくない。だからこそ、これからの日本企業やさまざまな団体はマーケティングに力を入れるべきという話になったのだが、これは出版業界にも言えることだろう。
私はたくさんの書籍をつくっているが、これまでは出版社任せで一切マーケティングに関わってこなかった。『ゼロ』の出版で、初めて私がマーケティングに徹底的に関わった。通常は著者の仕事ではないのだろうが、出版社があまりやってくれない分野なので仕方がない。
編集チームと私で徹底的にマーケティング戦略を練りまくった。できることはすべてやるという考えで、すでに34万部の発行部数までいっている。だが満足はしていない。なんといってもミリオンセラープロジェクトだから、まだ3分の1しか達成していない。これからもっと知恵を絞っていかなければいけない。
このマーケティング不在というのは教育のせいもあるだろう。とにかく人と違うことをしてはいけない。特殊なことは考えずに、敷かれたレールの上を走ればいいという考えではマーケティングはうまくいかない。常識を否定することから始めなければならない。
本を売るのであれば、これまでは新聞や雑誌の広告や電車の広告など定番の広告手法はあったが、これからはバイラルマーケティングの時代だ。そして、みんなスマートフォンを使っているので、これを使わない手はないだろう。
バイラルマーケティングの力はものすごい。HONZという書評サイトで書評がバズる(話題になる)とすぐに2、3万部の重版がかかるレベルらしい。ページビューはそれほどではないし、新聞の発行部数に比べれば雀の涙程度だが、書評サイトのユーザは本が大好きなユーザばかりなので、物凄く効果があるのである。
ソーシャルメディアの時代は、きめ細かくマーケティングをしてROI(費用対効果)を最大化しなければいけない。私がプロデュースする新雑誌も徹底してその辺をやっていこうと思っている。雑誌は終わっていると言われているが、逆に言うとそれがチャンスでもある。紙の雑誌での新しい成功モデルをつくってやるくらいの勢いで新しいマーケティング手法にもチャレンジしていこうと思う。
※週刊朝日 2014年7月11日号