大学の学長の権限を強める法改正案が国会で審議されている。大学の国際競争力を高めるなど、時代に即した改革をスムーズに実施することが狙いだ。だが、法改正の本当の目的は、大学の「生き残り」の“先”にある。
今回の改革のそもそものスタートは、安倍晋三首相の「日本の大学のグローバル化の遅れは危機的だ」という認識だ。世界大学ランキング(英・高等教育専門誌THE)の最新データによると、100位以内は東京大学(23位)と京大(52位)のみ。上位10校は米英の独占が続いている。
海外で活躍できる人材を必要とする財界や政府の「欲求」は強く、経済同友会は12年、「時代に即した改革を阻んでいる」として教授会の権限を限定するよう提言。昨年1月に安倍首相主導で始動した教育再生実行会議(座長・鎌田薫早稲田大学総長)でも本格的に議論され、同5月に公表された提言には「大学のガバナンス改革」が盛り込まれた。さらに同6月、政府は成長戦略に「世界大学ランキングトップ100に10校」と目標を掲げて予算措置に乗り出した。
「グローバル化」への柱のひとつが、学長の権限強化による改革のスピードアップということなのだ。この改革によって、学部の新設や入試制度の改革など、時代に応じた提案が、即実行できるようになると期待されている。
大学経営に詳しい桜美林大大学院の諸星裕教授(大学行政管理)は、こう話す。
「教授は学問を究めてきた人たちであって、マネジメント能力はない。世界の中でどう戦うか、ではなく、長年の慣習を続けてきたにすぎない。結果的に、日本の大学は世界から30年ほど遅れてしまった」
また、大学で不祥事が起こった際の対応のまずさも、
「学長の権限が明確化されていなかったからだ」
と諸星教授は指摘する。
理化学研究所の小保方晴子ユニットリーダーによるSTAP細胞論文の問題も、
「管理者と学者、指導者と運営者の役割が明確化されずにきたことが原因。責任の所在があいまいな業界だから起こり得たトラブルだ。『餅は餅屋』。学長などのトップは、マネジメントのプロがやるべきだ」
諸星教授は、京大が総長の選考にあたって、候補者を広く海外からも公募する制度を今年初めて導入したことも評価する。京大では7月上旬にも初めて公募による総長が誕生する見通しだ。
良いことずくめの改革のようだが、懸念や批判も強まりつつある。
学長選考の方法が変わることについては、こんな意見も。大学経営についてのコンサルティングも引き受けるシンクタンク「日本開発構想研究所」(東京都港区)の鎌田積(つもる)理事は、
「地方の小さな大学で選挙をやると、小さな組織の中に派閥ができ、スムーズな改革にはつながらないのではないか。各大学に応じた冷静な対応が必要だろう」
と懸念する。
東大元副学長で、専修大の広渡(ひろわたり)清吾教授(比較法社会論)は、改革は、
「大学の多様性を無視している。本末転倒の議論だ」
と手厳しい。
「法律はおおざっぱに構えて、実際の運用は各大学に任せるべきだ。全国の大学それぞれに固有のガバナンスがある。法律によって画一化すると、競争力を削ぐことになる。また、大学を実際に担っているのは教員。その教員を大学経営から排除しては、意味のある大学改革はできない」
※週刊朝日 2014年6月27日号より抜粋