ジャーナリストの田原総一朗氏は、朝日新聞に対するメディアの批判を認めつつも大きな流れを抑制する担い手は必要であるとその理由をこう語る。

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 最近になって、保守系の新聞や雑誌で「朝日新聞批判」が目立つようになった。

 そして、こうした批判には、一定の説得力がある。例えば、安倍首相が容認しようと意気込んでいる集団的自衛権の行使に、朝日新聞は批判的、というよりも危険視している。

 それに対して、保守系の論客は、「集団的自衛権というのは、全世界のどの主権国家も保有しており、それを行使する権利も同様に全世界共通だ」と主張する。「集団的自衛権の行使を禁止する国家というのは、日本以外には存在しない」というのである。こうした主張は正しく、少なくとも世界の主要国で集団的自衛権の行使を禁止している国家は日本だけである。

 また、4月下旬にオバマ大統領が来日して、「日本の尖閣諸島は日米安保条約の適用対象になる」と明言した。つまり尖閣に外部から軍事攻撃があった場合に、米軍は日本側と共同で防衛にあたるという基本線を確認したわけだが、そのことを朝日新聞を含む日本のメディアはこぞって歓迎した。

 だが、そのオバマ大統領の発言は、実は、アメリカの集団的自衛権の行使を意味していて、日本は集団的自衛権の受益者になるわけだ。それでいて、自国が同じ権利を行使するのを排除するのは大矛盾ではないか、というのである。

 さらに彼らは「朝日新聞は、日本の防衛について最大の危険性や敵性、脅威というのは、外部にあるのではなく、日本の内部にあるととらえているのではないか」と論難する。もっと露骨に言えば、危険なのは、たとえば北朝鮮や中国ではなく、安倍政権と思っているのではないか、というのである。朝日新聞は中国や韓国が浴びせるのと同質の批判を安倍首相に浴びせている、という決めつけもある。

 

 現に、5月28日の国会論戦での安倍首相の答弁について、朝日新聞は「武力行使否定と食い違い」「中国の強硬姿勢招く恐れ」「戦闘と一体化する危険性」「行使の判断 首相の手中」などと、ひたすら安倍首相の矛盾を強調している。そして社説の見出しは「疑問が募る首相の答弁」となっている。

 繰り返すが、こうした朝日新聞批判には一定の説得力はある。そして朝日新聞が、全世界のどの主権国家も保有している集団的自衛権をどう捉えているのか、どうあるべきなのかを明確に示していないことへの不満は、私自身も抱いている。

 だが、太平洋戦争とその敗戦を知っているわが世代としては、いったん流れが生じたときに歯止めをかける難しさ、というより不可能さを考えねばならないという思いが強い。

 朝日新聞をはじめ、日本のほとんどのメディアは満州事変、日中戦争、そして太平洋戦争と、いずれもあおりにあおってきた歴史がある。国家が滅びる愚行の歯止めどころか、大宣伝役を務めてきた。それも圧力を受けたわけではなく、ひたすら波に乗ることしか考えてこなかったのである。

 朝日新聞の姿勢には、少なからぬ不満はあるが、少数派に転じつつあることを察知していながら、波に乗るまいと抗していることは理解したい。ただし、中国、韓国と対立しているこの国のいき方について、「軍事力ではなく外交を重視せよ」などという抽象論ではなく、難しくても現実を直視して論じるべきである。

週刊朝日  2014年6月13日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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