ベストセラーはどうやってできるのか? ライブドア元社長の堀江貴文氏は全国講演ツアーを行うなか、その理由を推測する。
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著書『ゼロ』の全国講演ツアーが続いている。先日は、北海道の帯広市で地元の書店さん主催の講演会を行った。会場は超満員で、立ち見も出るほどの大盛況に終わった。
主催の書店さんに話を聞くと、今年は一押しのビジネス・ノンフィクション書籍がまだなくて大変なのだそう。「『ゼロ』も引き続きお願いします」とは言ったものの、保守的な書店業界の苦境を身近に感じた一瞬だった。
以前にも書いたが、出版社は売り上げ確保のために出版点数をむやみに増やしている。そもそも年に1冊くらいしか売れない本を紙の本で出す社会的意義はない。電子書籍で十分だし、必要ならプリントアウトすればよい。そのほうがずっとコストは安く済む。出版社の資金繰りと著者のエゴが生み出す歪んだ状況というわけだ。
むしろその程度しか売れない本であれば、採算を度外視してブログで無料公開してもいいくらいである。だが、そのために良い本を継続的に広告宣伝して、じっくり売っていくというやり方を出版社がしてくれないのだ。
これだけ地道にサイン会やPR、講演会を行って、90%近くの実売率がある『ゼロ』であっても、少しずつしか重版がかからない。
『永遠の0』や『海賊とよばれた男』の百田尚樹さんなんかは、自分で全国の書店を歩きまわり、時には自分でディスプレーを工夫したりして(もちろん書店さんに了解をとってだと思うけど)ベストセラーに持っていったそうだ。『夢をかなえるゾウ』の水野敬也さんも同様だ。出版社として、そのレベルの営業を行うことが果たしてどれくらい実践されているだろうか? 良い作品を書けば売れると思っている著者ははっきりいって傲慢である。
今の時代、著者のネームバリューとクオリティだけで本が売れると思っていたら大間違いだ。数百の書店を足でまわってサイン会を行い、講演会をしてメディアやウェブ媒体でPRをしていくのが当たり前にならないといけない。雑誌が売れない時代と言われているが、そういう工夫や努力を積み重ねていけば必ずしもそうではない。ホリエモンドットコムから生まれる紙の雑誌はそういうチャレンジを行っていこうと考えている。
そういえば、先日、下北沢のB&B(Book&Beerの略だそうだ)という変わった本屋さんでトークライブを行った。結構な人が来てくれてビールを飲みながら楽しいトークができた。初年度から黒字経営なのだそうだ。レジ横でよしもとばななさんの書きおろしの下北沢限定の小冊子が売られていて、工夫が見て取れた。こういう街の小さな本屋さんは、これから知的スポットとして注目かもしれない。
※週刊朝日 2014年5月2日号