女性特有の病気に悩んでいる人にも漢方は心強い味方。多くの女性を悩ます「月経の不調」に対する「名医」の漢方処方とは? 発売中の週刊朝日MOOK「漢方2014」から抜粋してご紹介する。
月経の不調は、起こる時期によって月経中と月経前に大きく分けられる。月経中の代表的な症状は月経痛で、日常生活に支障をきたすほど強い場合を「月経困難症」という。一方、月経前の症状は多様なことが特徴で、「月経前症候群(PMS)」と呼ばれている。身体症状では頭痛、腰痛、乳房痛、むくみ、便秘、食欲亢進など。精神症状ではイライラ、怒りっぽい、憂うつ、不安、不眠、集中力の低下などが多く見られる。
「月経困難症とPMSは一見、別物のようですが、互いに影響し合っており、近年は両方を訴える人が多くなっています。私は、月経周期中の体温変化との関連に注目しました。月経開始から排卵までの『卵胞期』は低温、排卵後から次の月経までの『黄体期』は高温です。PMSと月経困難症は、高温から低温への急激な体温変化をはさんで起こっているのです」
と、漢方医療頼クリニック(東京)院長の頼建守(らいけんしゅ)医師は話す。
漢方では、気と血は互いにバランスをとって体内を循環するとされ、一方が多くなると他方は相対的に少なくなると考えられている。
卵胞期は、月経で出血するため相対的に血が少ない状態で始まるが、適度に食べると徐々に血が増え、熱もつくられる。つまり黄体期にはすでに血が補充されているため過食は禁物。食べすぎると、胃腸が熱を持つ裏熱(りねつ)や、血が過剰になって流れが悪くなる瘀血(おけつ)を招く。この時期は水が停滞しやすいが、裏熱と瘀血はそれを悪化させる。
「瘀血と裏熱が複合した状態を瘀熱(おねつ)といいます。瘀熱は体に蓄えたものを消耗させるので、おなかがすきやすくなります。そこで度を超した多飲過食をすると瘀熱や水滞がいっそう悪化しますし、夜更かしやストレスがあると気が停滞します。そのあらわれがPMSです。そして月経が始まると瘀熱や水滞がなだれのように一気に放出されて体温が下がり、月経痛などが起こってくるのです」(頼医師)
診断には、症状や食生活、睡眠、便通などを細かく尋ねる問診が重要だ。瘀血や裏熱、水滞の状態は、腹診(おなかを触診する)や舌診(舌の状態をみる)、脈診(手首の脈をみる)などで判断する。
「治療に用いる漢方薬は、熱と湿をとり、血の循環を促す処方を基本とし、患者さんの状態に応じて選びます。最も多いのは、裏熱をある程度持っていて水滞も伴うタイプで、こういう人には、熱をさますとともに湿もとれる柴胡(さいこ)剤が適しています。実証(体力や抵抗力がある状態)なら大柴胡湯(だいさいことう)、中間証(実証とその逆の虚証との間の状態)なら加味逍遥散(かみしょうようさん)をよく使います。熱がさらに強く、全身に及ぶびまん熱型で水湿が湯気のような状態の実証には、白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)がよく効きます」(同)
※週刊朝日 2014年4月11日号