身近な人の死は悲しいもの。特にそれが母親ならば、その悲しみはどれほど大きく深いのか。喪失感にさいなまれる。“母ロス”が今、娘たちを襲っている。ライターの松田亜子がその実態を調べた。

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 身近な人を喪失したことへのグリーフ(悲嘆)ケアの第一人者である、上智大学グリーフケア研究所特任所長の高木慶子さん(77)はこう言う。

「人間の苦しみや悲しみのほとんどが喪失体験によるものですが、母親の死は『何よりも大きい』とされている。親子関係の良し悪しにかかわらず、母親とは自分を安定させる存在。それがなくなる喪失感は、時に想像を上回るんです」

“母ロス”は死んだ直後にわき起こることが多いが、10年後、あるいは20年経ってから襲ってくる場合もあるという。さらに高木さんが指摘するのは、母との確執があった娘の喪失感の原因は、「被害者意識からくる罪悪感」ということだ。

 母娘関係のカウンセリングをする臨床心理士の信田さよ子さん(67)は、こう解説する。

 

「確執のある母親に対して『早く死んでくれたらいい』と願い、実際に亡くなって楽になる人も多いですが、それは『母に愛されていない』と実感した時点で母親を喪失しているから。憎しみを抱く一方で、自分のことをわかってほしいという期待が続くほど、また生前の関係が複雑であるほど、『○○すればよかった』という罪悪感は余計に強く出てきます」

 ちなみに、Cさんは母の死後しばらくして体に異変が現れた。アトピーでもないのに顔や体が赤くなり、かゆくなったのだ。原因はわからなかった。

 こうした体の変化も“母ロス”の表れと指摘するのは、遺児の支援活動などでグリーフケアに携わる一般社団法人「リヴオン」代表の尾角光美(おかくてるみ)さん(30)だ。19歳で母を失った直後、椎間板ヘルニアでしばらく動けなかった。

「大切な人を失った時、その影響は、精神面のほか、身体的・社会的な面にも出てきますが、どんな感情も反応も異常なものではないので、『自分はおかしい』と否定しないで大丈夫です。自分の思いに気づくことも喪失感を癒やすきっかけになります」

週刊朝日 2014年3月28日号