役柄によっては髪の長さも色も変えなくてはならない役者の仕事。俳優の古田新太さんは、自身の髪に関していろいろな苦労があると言う。

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 現在おいらは、TBS系列「隠蔽捜査」の撮影中である。警視庁の刑事部長、官僚役だ。じゃによって、黒髪である。

 本来、おいらは黒髪が嫌いだ。すぐにブリーチして、金髪や赤髪のシャンクスにしてしまう。楽しい気持ちになるし、浮かれている人に見えていいんじゃないかと思う。しかしながら、そんな48歳は中々いないらしく、TVや映画の世界では、大人しく黒髪にしなければならない。時代劇をやっている時は、大抵髪を染めている。実をいうと、昨年「あまちゃん」の撮影中はカツラだったので、髪は赤髪だった。フフフ、知らなかったでしょう。

 金髪だった髪を、昨年12月、「隠蔽捜査」の撮影の為、黒に染めたのだ。などといいながら、おいらは本当は白髪だらけである。気付いたのは20代。10代からブリーチをして金髪だったので、気付かなかった。ある現場で坊主頭にしなければならず、ロングだった髪をバッサリ切って、「スキンヘッドもロックだぜ」などと喜んでいたのだが、当然、髪の毛は伸びてくる。1センチくらい伸びた時だ、「ん、光の反射じゃねえぞ、白髪じゃねえか」。後頭部と前髪が真っ白だった。すげーなおいら、と思ったのも束の間、現場が終わってすぐに金髪に戻してしまった。短髪のビリー・アイドルみたいなやつね。そこから現在に至るのである。ドラマが始まると黒に染め、終わると金髪。現代劇だと黒に、カツラだと色を入れる。故に、おいらは自分本来の髪色を忘れてしまっていたのである。

 ドラマの為に12月頭に黒く染めてから1カ月が経って、風呂上がりに1センチ程伸びた髪を乾かしていてびっくりだ。染まっていない根本の部分が、びっしり白だ。霜柱よろしく、同じ長さでおっ立っているではないか。いかん、これでは繋(つな)がらない。ドラマや映画の中では、撮影順によって時系列がバラバラだったりすることがある。繋がらないというのは、例えば、朝長髪だった人が、昼短髪になり、夜長髪に戻るというような現象だ。おいらは慌てて、メンズビゲンのヘアカラーを買ってきて髪を染めた。

 あれから3週間、また根本から霜柱が生えてきた。染めなければ。このドラマを撮影している間は、白髪であることを隠蔽しなければならない。でも終わって、舞台稽古が始まるとブリーチしてしまうんだろうな。最近は金髪のおじさん達も増えてるんだから、そんな役を振ってもらえないかな。ほら、所さんとか小堺さんとか竹中さんとか、可愛いじゃん。

 しかし最近のヘアカラーは、市販の物でも素晴らしい。白髪染めもブリーチも、たった15分でばっちりである。おいらが若い頃は、脱色しようとして、ヘアサロンに6時間くらいいた。早く脱色しようとアイロンを当て、耳を覆っているラップに溜まった汗が沸騰し、大やけどになったことがある(本当)。このように苦痛を伴うことから、おいら達の世界では「ガマン」と呼んでいた(嘘)。

 みなさん、思い切って金髪にしてみませんか? 多くのおじさんが金髪になったら、それが普通になるのにな。そしておいらの本来の白髪頭が、オープンになる日は来るのか。無茶苦茶しているから、その前にハゲたりして(深刻)。

週刊朝日  2014年2月14日号