政界再編に向けて動きがある中、ジャーナリストの田原総一朗氏は何を目的にして再編しようとしているのか分からないと疑問を呈する。

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 みんなの党の前幹事長だった江田憲司氏が離党した。江田氏を含む14人が一緒に離党し、1人を加えて15人で新党を作るのだという。

 この江田氏、それに民主党の細野豪志前幹事長、日本維新の会の松野頼久国会議員団幹事長の3人を中心にして、12月10日に「既得権益を打破する会」という勉強会を発足させた。約50人が出席したようだ。そして規制改革や地域主権、共生社会などをテーマに政策提言をまとめる方針を確認したということだ。50人といえば、現在の野党の中で一つの渦潮を起こす勢力になり得る。

 だが、もの足りないのは、彼らが一体何をしようとしているのか、その柱が判然としないことである。

 実は、現在の野党である民主党、みんなの党、維新の会などの存在感が薄いのも同じ理由だ。彼らがこの国、現在の自民党政権をどう変えようとしているのかが、はっきりと見えないのである。

 江田氏、細野氏、松野氏らが中心になって野党再編を狙うことは歓迎する。だが繰り返し記すが、何を柱にして再編するのか。

 彼らが狙っているのは、いわゆるリベラル路線であるはずだ。自民党は保守だから、それに対抗するのはリベラルである。ところが日本のリベラルは、アメリカやイギリスなどとは異なっていて、そのために国民を引きつける力が弱い。

 アメリカでいえば共和党が保守であり、オバマの民主党がリベラルだ。イギリスでは保守党が保守であり、労働党がリベラルである。

 共和党や保守党は資本主義に忠実で、政府は市場にできる限り介入しないことにしている。つまり市場競争の自由を尊重する、いわば「小さな政府」であることを旨としている。

 だが、自由競争が激しくなると、必然的に格差が大きくなり、しかも勝者は少なく、敗者が多くなる。

 例えば、アメリカでは1%の勝者が40%の富を握っていると言われているが、そうなると絶対多数の敗者の不満が高まってくる。となると、格差を是正するために市場に介入して、絶対多数の敗者のために物資や生活保護に力を入れる「大きな政府」のリベラル政党が選挙で勝つことになる。

 共和党を打ち負かしてオバマの民主党が勝ったのは、こうした理由によるものだ。イギリスも同様で、保守党政治によって格差が大きくなって絶対多数者である敗者の不満が高まると、「大きな政府」の労働党が政権を奪取することになる。

 福祉や弱者の生活保護に力を入れるということは、つまりはバラまき政治を行うことなのだ。

 ところが日本では保守党の自民党が、なんと「小さな政府」ではなく「大きな政府」として振る舞っていて、市場にどんどん介入し、福祉や生活保護にも力を入れている。ざっくりと言えば、バラまき政治を展開しているのである。

 そしてリベラル政党はアメリカやヨーロッパとは異なり、バラまき政治をレベルが低くて下品だと忌避する。例えば民主党は政権の座につくと、「自民党の予算はムダが多い、民主党は初年度に7兆円減らし、4年間で16兆円削減する」と国民に約束した。これは言ってみれば「小さな政府」で、国民には自民党と比べてサービス精神が足りないと映る。日本のリベラル勢力が国民を引きつけられない原因は、この辺りにあるのではないか。

週刊朝日  2013年12月27日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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