北朝鮮は12月12日、「陰のナンバー2」だった張成沢(チャンソンテク)前国防委員会副委員長(前朝鮮労働党行政部長)の死刑を執行した。ナンバー2が死刑になるという異常事態――北朝鮮内部で一体何が起こっているのか。元防衛省情報分析官で北朝鮮関連の著書もある西村金一氏が分析した。
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金第1書記自らが党、軍、秘密警察などを動かして張氏を葬ったのか。私は、それには懐疑的な立場だ。なぜなら、そこには複雑な権力闘争が絡んでいるからだ。
まずは張氏と崔竜海(チェリョンへ)次帥との権力争いがあった。崔次帥は張氏の「右腕」として引き上げられ、表舞台で活躍し始めた。そして軍を統制・監視する軍総政治局長の立場で実権を握り始めた。「陰」の部分で秘密警察を掌握した張氏と表舞台で軍を操った崔次帥との権力闘争の結果、秘密警察が張氏から離れ、崔次帥に失脚させられたと考えられる。
二つ目は張氏と軍強硬派の対立。張氏によって、李英鎬(リヨンホ)軍総参謀長が失脚し、軍の利権は党に返還させられた。そのため軍の内部に不満が生じ、強硬的な軍部と張氏との対立ができた。
さらに、張氏には中国との太いパイプがあった。その中国は、金第1書記の政敵となる金正男(キムジョンナム)氏を保護している。北朝鮮が権力争いなどによって混乱した場合には、中国はいつでも金正男氏を後押しして北朝鮮を保護国にしてしまう意図が見られた。その際に協力するのが張氏である、との疑惑も広がっていた。
私は張氏の失脚について、こう考える。崔次帥が軍の利権を奪った張氏に不満を募らせていた。軍の支持を得て、金第1書記に進言。金第1書記が張氏の失脚を最終決定した可能性が高い。
形式的に権力が集中しているとはいえ、まだ30代の金第1書記に、国の改革を進め、これまで親族関係にあった人物を根こそぎ交代させることは不可能だ。その背後にこのシナリオを仕組んで、関係組織や党の重要人物をまとめた人物がいる。それが崔次帥と見るべきである。
張氏派を追い落とせば、崔次帥の力は、軍内部だけではなく、党の意思決定機関である中央委員会、党の実務をつかさどる書記局、秘密警察までにも及ぶ。つまり、金第1書記を除けば、「表」の世界も「陰」の世界もすべて崔次帥が牛耳ったことになる。
※週刊朝日 2013年12月27日号