早稲田大学国際教養学部の池田清彦教授は、最近の日本を見ているとあの国のようになっている気がしてならないと語る。

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 いささか旧聞に属するが、参院議員の山本太郎園遊会で天皇に手紙を渡した行動が、マスコミ挙げてのバッシングにあい、私はかなりあきれた。時をほぼ同じくして、みのもんたが次男の引き起こした事件に関して、これまた大バッシングの嵐にさらされて、この国はホンマに下品な国だと相当あきれた。

 山本太郎もみのもんたも、上品と下品に分ければ下品な方だと私も思うけれども、犯罪を起こした訳でもない個人を、マスコミ挙げてバッシングするのは、山本やみのよりもさらに下品である。山本太郎の問題に関し、英国BBCのキャスターが、番組の中で「エチケットはそんなに大ごとなのか」と失笑したと伝えられるが、これが普通の国のまともな大人の常識であろう。

 そんなことよりも脱原発団体にサイバー攻撃が仕掛けられた事件の方がよほど大問題である。気に食わない奴に意見を言うのは自由だけれども、相手の自由を侵害してはならないのは自由主義社会の公準である。日本は徐々に自由主義の国から言論統制国家に変わりつつあるとしか思えない。50年後に北朝鮮のような国家になっていないことを祈る。私はもうすぐ死ぬからいいけれどね。若い人は可哀想だ。

 ところで脱原発と言えば、小泉純一郎元首相が、原発ゼロを訴えてボルテージを上げている。原発で食っている人は、無責任と批判しているようだ。たとえば、全国原子力発電所所在市町村協議会の会長の河瀬一治敦賀市長は「急に止めたら(原発関連で働いている住民の多くが)生活できない。地元をほったらかしにした発言だ」と言ったようだ。

 どんなに危険なシステムでも、そのシステムのおかげで食っている人は、システムを廃止したら、とりあえずは食うに困る。だからと言ってこういう論理が通るなら、それで食っている人がいる限り、どんな危険なシステムも廃絶できないこととなる。これでは世の中は良くならない。

 受動喫煙は体に悪いといういい加減な理由で、神奈川県は条例を定めて飲食店に禁煙や分煙を義務づけたが、それで客足が止まり食えなくなって店をたたんだ人が何人もいる。受動喫煙より原発の方がはるかに危険なのは論を俟(ま)たないが、前者は規制されて後者は許されるのは、喫煙者は政治的弱者で原発推進派は政治的強者だからである。朝日新聞の世論調査によれば、小泉の原発ゼロ主張「支持」は60%とのこと。国民の多数派の主張が政治的強者にならないとは。やっぱりこの国は北朝鮮化しつつあるのかもね。

※週刊朝日 2013年12月13日号