母と娘は仲良し。よく似た顔で服は共用、趣味や考え方もほぼ違わず、まるで一卵性双生児――。そう信じて疑わないお母さんには少しコワい話。娘は内心、大きな葛藤を抱えているかもしれない。本誌では50代以上の母世代500人と、20~40代の娘世代500人に対するウェブアンケートを実施し、両者の本音とその実態を探った。結果、「母に支配されている」と感じる娘が少なくとも1割いた。
今回のアンケートで両者の関係を聞いたところ、「(母または娘と)仲良し」と答えたのは母親世代が66.8%、娘世代が56.2%と、半数を上回っている。ただ母親世代が10ポイントも多い。それは何を意味しているのか。
例えばアンケート結果のなかに、「娘への心配や不満を伝えている」という母親は7割だったが、「母親に伝えている」という娘世代は4割に満たないというデータがある。娘が母親に対して遠慮したり、文句を言うことに罪悪感を覚えたりする心理が垣間見える。
Eさん(32)は、母に言いたいことを伝えられないと打ち明けた親友から「親には気を使う必要ないよ」と言われた。だが「親を困らせるダメな自分」になる罪悪感にさいなまれ、結局、口をつぐんだ。
「母とは価値観が違う。話し合って余計こじれるのも面倒。親だからわかり合えるとは思えない」
一見、仲良しに見える母と娘でも、見方を変えれば「運命共同体」ととらえられなくもない。アンケートで「『母』はどんな存在か?」と質問したところ、1位は「どんな時でも味方」で、娘の41.8%がそう考え、母親の47%もそのように娘から思われていると答えた。
こうなると、なかなか母の呪縛から逃れられない。
銀行員Fさん(35)は母(60)から「あなたはママの生きがい」と言われて育った。進学も仕事も結婚も望んだ道を生きられなかった母は父と離婚後、自分の人生を一人娘に託した。母を喜ばせるのが娘の義務と疑わず、バージンロードは母と歩くつもりだった。
だが、いつからか上司の顔が母に見えるようになった。デート中も、自分に意見してくる空耳が聞こえた。縛られている。耐えかねて「一人暮らしをしたい」と相談すると、母は言った。ここまで育ったのは誰のおかげ? ママを置き去りにするの?
「もう私をお母さんの身代わりにしないで!」
ある日、体中にじんましんが出て、Fさんは家を出た。以後3年、会っていない。それでも母の呪縛から抜け出せていないと感じる。心のわだかまりは母が死なないと消えないのか。
娘世代のカウンセリングを続ける臨床心理士の信田さよ子さんは、「確執は、娘だけが抱えるもの」と指摘する。
「娘の葛藤は、いわば奴隷の反乱。でも雇い主である母には『自分は良心的なのに、どうして?』としか思えない。だから、娘がいくら言っても思いの10分の1も伝わらないことが多い」
母親に娘の思いを気づかせるには「究極的には脅しか、離れるしかない」と、信田さんは厳しい。脅しとは目の前で首をつろうとする、体を刃物で傷つけるといった過激な行動だ。なぜ、そこまでするのか。
「母親に論理はほとんど響きません。追いつめられた状態を見せない限り、母親は事態の重さに気づきにくいんです」
※ 週刊朝日 2013年12月13日号