TPP(環太平洋経済連携協定)交渉ではコメなどの食品が注目されているが、米国が狙っているのが日本の医療分野。日本の製薬市場において、米国は利益拡大を目指しているようだ。
米国は以前から、薬の公定価格を決める日本の制度には問題があり、新薬には高い価格をつけたり、時間がたっても下がったりしない仕組みに変更すべきだと求めている。
その願いは、厚労省の思惑を外れる形で部分的にかなえられた。2010年4月から試験的に始まった「新薬創出加算」という仕組みだ。この仕組みは、革新的な新薬であれば価格が下がらないようにするもの。もともとは国内企業の開発力を高めることが狙いだったが、ふたを開けてみると、“恩恵”は、多くの外資系が受けている。
11年2月に開かれた日米経済調和対話で米国政府は、この仕組みを恒久化するように要請している。おいしい仕組みを手放したくないからだろう。
それだけでは終わらないかもしれないと、約10万人の医師らが所属する全国保険医団体連合会の寺尾正之氏が懸念を示す。
「米国がTPPを使って、日本の薬価制度のルールをさらに都合のよいものにしようと、ISDS条項というカードを切ってくる可能性もあります」
ISDS条項とは、政府や企業が投資先の国の対応で損害を受けた場合、国連の仲裁機関などを通じて、相手国を訴えることができるもの。これまで米国が起こした訴訟は、米国が全勝している。「ISDS条項は米国寄りだ」との批判も出ているほどだ。
このカードを切られると、非常に厄介なことになる。なにしろ、いま日本では外資系が開発した新薬を抜きにすると医療が成り立たなくなってしまう状況だ。
※週刊朝日 2013年11月22日号